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2008年06月12日(木) 13時03分

中国人民元高とインフレ圧力緩和の嘘ダイヤモンド・オンライン

 中国の為替政策は袋小路に迷い込んだ——。 「ワシントンのインナー・サークル(政権中枢)は今、もっぱらこの話題で持ちきりだ」(米財務省幹部)という。

 年初から対ドルで年12%以上のペースで上昇してきた人民元。その勢いはここにきて緩やかになりつつある。人民元は、中国人民銀行が毎朝、取引基準値を発表、そこから上下0.5%の変動が許されている。4月10日には初めて1ドル=6元台に突入したが、6月12日の基準値は1ドル=6.9015元と前日比で0.28%の伸びに止まった。「連日過去最高値を更新」といっても、実際は「牛歩戦術」と表現したほうがいい有様なのだ。

 中国政府関係者は、「米国向けの輸出が伸び悩む今、輸出産業にいっそうの打撃を与える人民元高の加速は歓迎すべき流れではない」と説明する。

しかし、上昇ペースの鈍化はかえって中国経済のためにならない可能性がある。ほかならぬインフレの進行である。5月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比7.7%と4月の8.5%から鈍化したが、それでも過去11年来の高水準。エネルギーや原材料コストの消費者転嫁もこれからが本番であり、通年では、6%〜7%に達しそうだ。

中国は人民元の上昇テンポを緩やかにするため、ドル買い・人民元売りの為替介入を繰り返し、市中に大量の人民元を放出してきた。そのせいで、資産バブルが発生。深刻なインフレを招く結果となったのだ。むろん中国側も為替介入を控えて、人民元高を容認していくことが必要な局面であることは分かっている。
  
しかし問題はその上昇ペースだ。欧米の為替問題専門家の多くは、今のままでは、焼け石に水と見ている。というのも過去3年間の対ドルの伸び率は17.51%だが、対ユーロでは逆に6%強下がっている。昨年の人民元の実効為替レートの伸び率は5%。すなわち真相は元高というよりも、ドル安なのである。

 FRB元幹部は、中国側に人民元高の加速を迫る外圧が必要としながらも、「当面は期待薄」と断言する。「インフレに怯える米国は、一段のドル安が進むことに警戒感を高めている。さらなる人民元高を強いれば、中国側が米国債を売り払うなどポートフォリオの大胆な組み替えに動きかねないとの懸念が米国政府内には強い」。

 中国の為替政策の3原則は、「自主性」「制御可能性」「漸進性」。そこに市場メカニズムを尊重する姿勢はない。この唯我独尊の統制経済がソフトランディングに失敗したとき、袋小路に立ちすくむのはほかでもない世界経済である

(ダイヤモンド・オンライン副編集長 麻生祐司)

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