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2008年06月12日(木) 12時24分

食材高騰でも価格転嫁できず! 廃業続出の居酒屋業界ダイヤモンド・オンライン

 「タダでもいいから引き取ってくれないか」都内で居酒屋を営むある店主は、大手飲食店チェーンの出店担当者の元を訪れては、頭を下げている。

 市場の過当競争により、ここ数年で客足は激減。そのうえダメ押しとなっているのが「原材料価格の高騰」だ。メニューを値上げした結果、さらに客足が落ち込んだ。「毎月の収入は、よくてコストをやっと賄えるくらい、多くの場合は赤字」(店主)という苦境が続く。

「もはや経営を続けるほどリスクが高まる」とわかってはいるが、自分で店を畳むにもコストがかかる。そこで引き取り先を探しているのだ。

 しかし、大手は大手で、自社の不採算店舗の整理に苦慮している状況。「割安で買えても採算を見込めない店舗が多く、維持費もバカにならない。大手居酒屋チェーンからも売却話が舞い込んでおり、中小居酒屋の申し出までは応じられない」(大手飲食店チェーン)という。

 運よく買い取ってもらえることになっても、坪単価は半値以下に買い叩かれるのが一般的だ。それどころか、「タダ」でもなかなか引きとってもらえない。これでは、店主が悲鳴を上げるのも無理はなかろう。

 現在、全国の居酒屋は苦境に陥っている。原材料価格高騰の影響がジワジワ波及し始めたことなどにより、外食産業全体の売上高は、この4月に前年同月比1.3%減と3年ぶりに前年を下回った。特に淘汰が激しい居酒屋の市場規模は、1990年代前半から3割近くも減少中だ。シェアを伸ばしているのは、一部の大手資本のみ。業界全体で見れば、今や退店(廃業)数が出店数を1.2〜1.3倍も上回っている。

 そもそも居酒屋は、出店時にかなり資金がかかる。たとえば、客足が多い山手線内に40〜50坪程度のおしゃれな居酒屋を出店しようと思えば、テナントの保証金、厨房設置費、内装費、備品代、食器代などで、3000万〜4000万円の初期投資費が必要だ。

 それに加えて、ランニングコストが急上昇しているのだ。高止まりする人件費に加え、パスタに使用する小麦、サラダに使用するドレッシング、世界的に需給が逼迫する魚介類、メーカーが一斉値上げを行なったビールなど、人気メニューの原材料費が軒並み2割〜3割も上昇している。

 こんな状況で客単価がせいぜい3000〜4000円程度とあっては、とても採算がとれない。1メニューにつき50円アップで客足が大きく減り、200円以アップで集客が困難になるという業界では、「どこもお客に気ずかれないように、10円、20円と値上げするのが精一杯」(大手飲食店チェーン)だ。

 そのため、場末の中小店を中心に、「65%を超えると死に体も同然」と言われるFLコスト(材料費+人件費÷総売上高で計算する原価率)が60%を超える「赤信号店」が続出している。

 次々と姿を消すサラリーマンの憩いの場・居酒屋。今後は「仕事帰りにちょいと一杯」がままならない時代が来るかもしれない。

(ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)


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