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2008年06月11日(水) 12時15分

「ランニングコストを忘れている。基本料だけ安いのは見せかけ」──イー・モバイルの千本会長+D Mobile

 「iPhoneの独壇場の時代は終わった」「iPhoneなどのレベニューシェアモデルはオペレータにとってほとんど利益が出ない。共存しがたいビジネスモデル」「音声の時代はそろそろ終わる」「頭(基本料)だけ安い料金は所詮見せかけ」「日本の携帯、世界では孤立状態」──。イー・モバイルは6月10日、新機種2モデル「EMONSTER Lite」「H11HW」と新サービス「イー・モバイル国際電話」を発表。Appleの「iPhone 3G」が発表され、世間がiPhone 3Gに注目する中、おりしも同日に開催した記者発表会に登壇したイー・モバイルの千本倖生会長兼CEOから上記のような“節”が次々に飛び出した。

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 イー・モバイルは13年ぶりの新規参入キャリアとして2007年3月に開業。2008年3月に始めた音声サービスも含め、開業から約1年2カ月で累計契約数は55万5400(2008年5月末時点)に達した。

 今回の新機種は「各社の大量の新機種や販売動向、今日発表されたiPhoneの動きも含めて、携帯のトレンドに大きく2つの流れが見えた。それをふまえた機種となる」(千本氏)という。

●初期費用+ランニングコストを安価に──でも、データARPUも稼ぐ計画

 HUAWEI製のH11HWは下り最大3.6MbpsのHSDPA通信に対応する、折りたたみスタイルの音声端末。QCIF+(176×220ピクセル)の2インチ液晶や200万画素カメラなど、スペックは携帯他社の新機種に劣る箇所もあるが、これはあえてだという。仕様をスタンダードなものにした分、非常に安価に設定できる。これが1つ目の「機能を絞ったシンプル携帯+極めて魅力的な料金」(イー・モバイル)だ。

 初期費用は5980円で、月々の追加割賦料金はなし(2年間の定期契約制度「新にねん」加入の場合。店頭キャンペーンで、より安価とする可能性もある)。月額料金は基本プラント「定額パック24」の加入で1980円。イー・モバイル加入者同士で24時間通話無料、固定宛て30秒5.25円、他社携帯宛て30秒9.45円、1000円分の無料データ通信といった料金体系で、月々のランニングコストも含めた「安価」をアピールするベーシックな端末に仕上げた。

 H11HWはBluetoothやUSB接続によりHSDPAデータ通信モデムとしても使用できる(データ通信中も通話やテレビ電話を同時に利用可能)。PCでデータ通信を行うと無料の1000円分はすぐ尽きてしまい(2万3825パケット分。日に数通ほどの一般的なメールのやりとり程度ならまかなえる範囲だという)、以降は0.042円/パケットの従量課金となるものの、それも4980円(定額パック24込みで月々5960円)が上限となる。

 音声サービス対応の第1弾端末「H11T」は“ケータイ”としての基本スペックもそれなりだが、高速かつ定額(あるいは上限あり)のデータ通信用Bluetoothモデムとして使える端末でもあった。H11HWはさらに小型・軽量化を図り、機能を厳選した結果、かなり安価に販売する予定。これは、音声サービスでなく、ブロードバンドデータ通信サービスをメインとするイー・モバイルならではの端末展開といえ、他社携帯ではまかないにくいニーズにも対応できる可能性が広がる。データ通信端末が好調のイー・モバイルだが、音声サービスのメリットも含めると、データ通信のみを望むユーザーも「意外に汎用的に使えそう」と思うかもしれない。

 加えて、「日本の携帯戦争の1つの盲点は“ランニングコスト”だ。今までが高すぎた。これを変えないと日本の携帯料金は安くならない」と千本氏。ソフトバンクモバイルのホワイトプランや、いきなり月額基本料を半額にするドコモやKDDIの料金プランにより月額基本料が安価になった認識はあるものの、携帯を分割購入すると約2年間、毎月加算される割賦金や他社携帯宛ての通話料金、データ通信料金なども合計した月々のランニングコストは、実はどうなのか──「それほど変わっていないのではないか。イー・モバイルはこれを変えたい」という。H11HWは、安価に購入できる新にねんの適用で、2年間の継続利用条件が課せられるものの月額料金に加算される割賦金が必要ない販売方法で展開するのがポイントだ。

 例えば、主要国への国際電話を割安で提供する「イー・モバイル国際電話」(7月1日開始)。アメリカや中国、韓国などの主要国向け通話料金を36円/分とする、国内通話料と同水準の価格で展開し、既存のイー・モバイル音声端末ユーザーも申し込み不要で利用できる(なお、7月1日から9月30日まで対応する57の国と地域への通話料を、一律18円/30秒とするキャンペーンを実施)。音声サービスの開始当初から展開する「定額パック24」とともに、自社同士は24時間無料、他社携帯へも9.45円/30秒と低価格に設定する点をアピールする。

 H11HWはテレビ電話にも対応。「テレビ電話、今まで使われていなかったのは料金が高かったから」(千本氏)。定額パック24加入の場合で18.9円/30秒と、他社のテレビ電話通話料より安価にする。

 そして、満29歳以下のユーザーを対象にする割引キャンペーン「U-29 若者応援キャンペーン」も実施。期間は2009年4月30日まで。こちらはデータARPUが高いという学生ユーザーを月額料金3年間無料、データ通信料の上限いっぱいまで使える無料の専用コンテンツを用意することで、新規ユーザー獲得とともにARPUを確保する考えの「ホワイト学割」と似ている。端末初期費用を割り引くほかにデータ通信料の下限を0円に、また、2008年6月から7月の期間限定でデータ通信料を完全無料とする特典を設ける。

 このように、流動的な通話料とデータ通信料に魅力的と思わせる価格とサービスでAPRU向上も一緒に考えている。このあたりはソフトバンクモバイルと同様に、なるほどと思わせるところはある。

●“世界の流れ”に沿った端末を増やす

 もう1つは、“世界の流れ”に沿った端末の投入。

 HTC製のEMONSTER Liteは「HTC Touch」をベースにしたタッチパネル搭載のスマートフォン。タッチパネル液晶と新たなユーザーインタフェース「TouchFLO」、OSにWindows Mobile 6 Professionalを搭載し、EMONSTERのバリエーションモデルという位置付けでフルキーボード(QWERTYキーボード)をダイヤルキーに代えたコンパクトモデルとして展開する。

 「音声がメインのサービスはそろそろ終わり。もはや端末に備わるアプリケーションに1つの過ぎない機能になっている。日本の携帯は音声のハンドセットで無理にブロードバンドサービスを使う、ワールドワイドではかなり異常な市場。イー・モバイルはこのグローバル市場の中に日本の携帯を持っていけるようにしたいと考えている。今回は、このグローバル市場に長けるメーカーが開発した“世界の流れ”に沿った端末を投入する」(千本氏)

 世界の流れに沿った端末、これがスマートフォンだという考えだ。

 「中国がハイテクの先進国家になるのは明らか。イー・モバイルは日本の携帯会社であるが、登壇者は私以外全員中国系の方。歴史の潮目が変わっている──私はこう思う」(千本氏)。

 中国の通信機器大手 HUAWEIはイー・モバイル向けとして、端末だけでなくHSDPA対応基地局などの無線インフラも担うネットワークサプライヤーとして展開する。

 「HUAWEIは、世界最大のネットワークサプライヤー Ericssonにも迫るほど成長している。世界ナンバーワンのサプライヤーになる時期も遠くはないと思う」(千本氏)

 千本氏は同日に発表されたAppleの「iPhone」にも「iPhoneの独壇場の時代は終わる」と言及した。

 この理由に、iPhoneの端末的な魅力は確かに認めるとするもののの、EMONSTER Liteを投入するHTCをはじめとする世界の強力なベンダーがタッチパネル端末を次々に投入していくであろうこと、そして、ベンダーと通信料金収入を分け合うレベニューシェアによるビジネスモデルがオペレータにとって共存しがたく、ほとんど利益がないためだという。

 「今後のモバイル業界で生存していけるモデルなのかはかなり疑問だ」(千本氏)。

●通信速度の高速化も画策、最大80Mbpsも想定

 音声サービスも含めてモバイルブロードバンドを軸に展開するイー・モバイル。現在、下り最大7.2MbpsのHSDPAサービスを展開するが、上り速度も高速なHSUPAを含めた通信の高速化も画策する。

 「現状の施設のまま、下り40Mbpsから80Mbpsまで行けると考えている。100Mbps以上の速度は、現状の周波数帯でサービス展開するのは不可能。新しい周波数帯の割り振りとともに展開を考える必要がある」(ガン氏)

 「数年の範囲では、世界の主流はHSPA。既存施設のままソフトウェアのアップグレードで展開するのが最も効率的で、一番現実的。それからLTEに行く。こちらはもう少し先の話ですが」(千本氏)

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