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2008年06月11日(水) 00時00分

(6)「私流」解釈、舞台で表現読売新聞

「人間●失格」では、部屋にこもって携帯電話をかける「ダメ人間」が描かれている

 ぼろアパートの一室。引きこもりのニートが携帯の出会い系サービスで遊び、生活費を親にせびる。昔の彼女に「オレ死ぬから」とすがると、「そう言って死ねないんでしょ」と笑われ、こう言われる。「読んでみたら? 人間失格」

 昨年7月、「三鷹市芸術文化センター」で上演された演劇「人間●失格」の一場面だ。太宰治が眠る禅林寺に近いこのホールでは、2004年から毎年この時期、太宰作品をモチーフにした演劇を上演している。

 「現代でとことん“ダメ人間”を追求したらこうなったんですよ」。劇団「ポツドール」主宰の三浦大輔さん(32)は、笑った。

 誰もが一度は心酔する太宰作品。「青春のはしか」とも言われる。演劇界ではしばしば、「太宰や人間失格の主人公って、オレに似ているよねえ」と口走る輩(やから)がいる。三浦さん自身も、そう思った時期があった。

 「でも、太宰は自殺でも何でも行動を起こすところがすごい。今のダメ人間は全く行動しない」。だからこの劇に、「なれるはずもない太宰にあこがれた凡人の物語」と解説を付けた。

 今年は、劇団「東京タンバリン」が全く趣向の違う舞台を準備している。舞台は戦後間もない東京。太宰の短編「ダス・ゲマイネ」を中心に据え、4人の若者が作家や画家としての道を歩んでいくストーリーだ。

 「太宰の神髄は自分にしか分からない」というファンもいる。「だから、物語の中には明確な結末を設けずに、見る人がその先を想像できるような話にした」と脚本家の高井浩子さん(41)。舞台を客席の中心に置いて、「まさにその場にいて、のぞき見ている雰囲気」を出せるようにした。

 さて、この演劇企画の仕掛け人は、市芸術文化振興財団の森元隆樹さん(44)。学生時代に脚本を書き、演劇に打ち込んでいた。劇団名は「グッド・バイ」。そう、太宰の絶筆作品だ。森元さんも「はしか」経験者の一人だった。

 「演劇の道を断念して職を探していたら、たまたまこの財団に合格して。本当に偶然なんです」

 かつては三鷹を訪ねた文学青年が、ほろ酔いの太宰と語らった。この街に今なお、太宰に挑む人が集う。

(●はハートマーク)

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231212425875707_02/news/20080617-OYT8T00673.htm