記事登録
2008年06月11日(水) 17時43分

水野晴郎さんに教えられた“本物のユーモア”オーマイニュース

 映画評論家の水野晴郎さんが6月10日に死去していたことが報じられた。

 その人生は、日本の昭和の激動の時代とも重なっている。若き日は、時代の変化の中で民主主義について悩み考えていたという。晩年は、骨粗しょう症に悩まされていた。

 ユーモアのセンスに溢れていた水野さんには、まだ映画の分野で多くの構想や夢があったようだ。

 長年、映画解説を担当していた『金曜ロードショー』の最後の名文句、「いやぁ、映画って本当にいいもんですね」は、子供にもわかりやすい言葉であり、小学生時代のころの私も、妙に納得してしまった。

 水野さんの名文句は、上から見下ろす視点や妙に専門家ぶっている人の言葉とは違って、人情味に溢れた雰囲気を併せもっていた。

 水野さんの人柄を示すエピソードとして、私は、声優の富山敬さんの新しい仕事が確定したときの、彼の祝福の言葉を思い出す。

 昔、金曜ロードショーで、映画版『宇宙戦艦ヤマト(富山敬さんは、主人公の古代進の声を担当していた)』の放送があった。その際、番組内で、富山敬さんが、次の仕事、テレビアニメ『あさりちゃん』の父親役に内定したという情報が流れた。

 水野さんは、富山敬さんの新しい門出に、電話ごしに満面の笑顔で「おめでとうございます」と言っていた。そのときの水野さんの笑顔は、とても素晴らしかった。

 水野さんは、“入学は簡単だが、卒業がとても難しい”と言われている、慶応大学の通信教育部を卒業している。

 学業や仕事で、さまざまな夢の実現に苦労してきただけに、他人の新たな挑戦や門出に対しても本気で応援していた。

 水野さんは、日本を愛し、映画を愛し、アニメ映画を愛し、頑張る人を愛したということだろう。水野さんの映画評論の守備範囲は、柔軟性に溢れていた。

 晩年、人々に、賛否両論の評価を巻き起こした監督作『シベリア超特急』で、山下将軍役を務めた水野さんだが、そこでも自分の夢を実現した男の姿を見せていた。「マレーの虎」と呼ばれていた山下将軍への強い思いもあったのだろう。また、戦争終結直前に士官候補生として陸軍に入隊したという経歴も、影響しているのだろう。

 山下将軍と言うと、フィリピンで日本軍が隠したといううわさの財宝「山下財宝」ばかりが話題になる。しかし、水野さんは、人間・山下将軍を描きたかったのだろう。

 有名になってからも、若手芸人の悪ふざけのドッキリ番組に出演するなど、度量の広さを見せて、にこやかに登場していた水野さんは、ある意味、とても大人であった。本物のユーモアが何であるかを知っていた水野さんは、若者への情報発信を続けていた。

 年を重ねても、若者をあっと驚かせる珍言・名言を発して、想像力の素晴らしさを発揮していた水野さんの御冥福を心から祈りたい。

(記者:谷口 滝也)

【関連記事】
谷口 滝也さんの他の記事を読む
【関連キーワード】
映画

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080611-00000008-omn-peo