記事登録
2008年06月11日(水) 13時53分

“その後”を匂わせる便利な間接表現「連れ込み」〜ラブホテルから見える日本人の性 第3回オーマイニュース

ラブホテルって、グッドネーミングだなあと思う。

 最近は、カップルズホテルという呼び名も出てきたが、やはりラブホテルという言葉が一般認識としては色濃く、もう30年以上親しまれている(?)呼称である。

 しかし、ラブホテルはずっとラブホテルとい呼ばれていたわけではない。それまで、様々な呼称が生まれては消え、生まれては消えていった。一気に羅列してみると……

・ 連れ込み(宿・旅館・ホテル)
・ さかさくらげ
・ スリーーS
・ 温泉マーク
・ 仕掛けホテル
・ 同伴ホテル
・ アベックホテル
・ エルホテル
・ ブティックホテル
・ ファッションホテル
・ ラブテクホテル
・ レジャーホテル
・ カップルズホテル

……などなど、一目で意味がわかるものから、一瞬首をかしげてしまうものまで、その呼び名は実にさまざまである。

 同じ機能をもった施設なのに呼称が次々変わるというのは、なんとも不思議な建物だ!

 時代によってここまで呼び名が変化してきたことを考えると、人々がラブホテルに求めた本音と建前の世界が見えてくる。そこには仕掛けられたけたカモフラージュがあったり、当時の人々の羞恥心が隠れていたり……呼び名ひとつとっても当時のラブホテルがどういう存在であったかがうかがえる。

 なかでも注目したいのは、最もあからさまな「連れ込み」という呼称。ラブホテルと並んで、数10年使われていた呼称である。

 連れ込みは、ツレコミもしくは連れ込み(宿、旅館、ホテル)といったような「連れ込み+○○」と呼ばれていた。

 そんな連れ込みという言葉を調べてみると、引っぱり込むという意味は変わらないものの、時代によって引っぱり込まれる対象が違うということがわかった。

 例えば江戸時代は、私娼がお客さんを引っぱり込む時に、連れ込みという言葉が使われている。いわゆるプロの女性がお客さんを「寄っていかない?」なんて誘っている、お色気たっぷりな様子が浮かぶ。

 しかしその後、女性を連れて待合へ行く時にも連れ込みという言葉が使われ、次第に男性が女性を引っぱり込むというイメージに変わり始める。

 昭和初期の出版物には「田舎出の女や世事にうとい婦人等に甘言をもって宿屋などに連込み関係をつける。これらのものを常習に客とする宿を連れ込み宿という」とあり、ここでは素人女性を騙して連れ込むといった犯罪の匂いが漂う。

 男性が女性を連れ込むという認識が広まったことには諸説がある。

 まず一説では、言い訳からはじまったというもの。

 昭和2、4年ごろ、大阪駅近くに林立していたカフェでは、男性がカフェの女給にハンドバッグをプレゼントし、女性がそれを受け取ることは暗黙のうちに性的関係をOKしたものとされていた。

 そこでその2人が旅館に行き、男性がそのハンドバッグを持っていわゆる連れ込み旅館に入る。女性は後からついて来て、お茶を持ってきた女中に「ハンドバッグを取られて連れ込まれたの」と弁解し、これが転じてそういう旅館のことを連れ込みとか連れ込み旅館と称するようになったとか……。

 また別の説では、女中たちの間でからかい半分に「○○の間は連れ込みさんよ」と噂していたのが広がったっていう説もある。

 いずれにせよ、女性同士の噂話やいいわけが「連れ込み」という言葉を広げて、そのまま呼称になったというのが面白い。その先にある性的な関係を、直接言葉にせずにあらわす便利な言葉といった感じだったのだろうか。

 現在は「お隣の息子さんまた女の子連れ込んで」という噂話や、「犯人は幼女を連れ込み」といった事件、「あの奥さん! 旦那さんのいない間に他の男性連れ込んでるわ!」なんてこともあるので、連れ込まれる対象はさまざまだが……。

(記者:金益見)

【関連記事】
第2回 「利用者たちの嘘八百に驚いてしまう」
第1回 「ラブホテルは朝から満員」
特集「ラブホテルから見える日本人の性」
金益見さんの他の記事を読む
【関連キーワード】
ラブホテル
日本人

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080611-00000006-omn-peo