記事登録
2008年06月11日(水) 17時44分

買い手が注意しなければならない不動産市場の欠陥オーマイニュース

 老人ホーム「バーリントンハウス馬事公苑」(東京都世田谷区)の施工不整合は、耐震強度偽装事件や欠陥マンション問題で繰り返されてきた問題と構図が重なる。

 それは買い手が注意しなければならないという不動産市場の絶望的な状況である。

 当該施設はグッドウィル・グループが2006年に開設した老人ホームで、構造計画研究所が構造設計を担当し、東急建設が施工した。柱の鉄筋本数が少ないなど、約800カ所で建築確認を受けた設計図面と異なる施工があることが2008年5月30日に判明した。耐震強度不足の可能性もあり、東京都が調査に着手した。大手メディアが報じた。

 興味深いのは問題の発覚過程である。上記施設を2007年12月に購入する予定だった不動産コンサルティング会社「ゼクス」(東証1部上場)が建築関係書類をチェックしていて発覚した。

 本来ならば手抜き施工に対しては、何重ものチェック機能が働く。

 第1に監理である。工事では監理者というポストを設置し、設計書通りに施工されているか確認する。監理は設計書を熟知している設計者が行うのが通常である。

 第2に確認検査機関の検査である(中間検査、完了検査)。建築確認の内容通りに建築されたことを確認する。

 第3に建築主の検収である。建築主は発注者として、建築請負契約の通りに施工されているか確認する。

 本件では、これらのチェックは全て機能しなかった。本件だけではない。耐震強度偽装事件でも、居住してから欠陥が判明する欠陥マンションでも、チェック機能は働かなかった。その一方で、本件では買い手の調査で明らかになった。

 買い手の調査で判明する程度の内容ならば、上記の3段階のチェックで見極めることは、能力的に不可能とは考えられない。

 買い手と上記の確認者との相違は能力面ではなく、真剣さにある。

 物件の買い手は不良物件をつかまされたくないため、問題がないか真剣に調査する。一方、監理や確認検査機関にとっては「所詮、他人事」という面があるのではないか。

 料金分以上のチェックはやらないという意識が働いている可能性がある。建築主は自分の建物になるのだから、本来、真剣に調査すべきである。しかし自分が住む建物でもない限り、専らの関心は建築費用を低く抑えることになりがちである。施工を厳しくチェックするよりも、安い費用で施工する業者を歓迎してしまう。

 これも耐震強度偽装事件や欠陥マンションと同じ構図である。

 建築する側も、検査する側も、真剣にチェックするインセンティブが働かないならば、物件の買い手が注意するしかないことになってしまう。紛争予防策として買い手に注意喚起することは有意義である。

 とはいえ契約前に全てをチェックすることは困難である。本件でもゼクスの調査には限界があったことが伺われる。譲渡は延期したものの、施設の運営はゼクスが継承している。仮に契約前に問題の全容を把握していれば、そもそも契約を避けることが合理的な行動である。だからこそ、東京都に相談し、本件が報道されるに至ったものと推測される。

 買い手の調査が望ましいとしても、調査能力の限られている一般消費者の場合、注意を要求するだけでは酷である。しかも問題物件を購入してしまった買い主の自己責任を強調することで、建築主として行うべき確認を怠った(または悪意ある)売り主側を利する結果になり、正義・公平に反する。

 ゼクスにとって妥当な解決策は契約解除と思われる。記者も東急不動産から購入したマンションについて引渡し後に不利益事実(=隣地建て替え)不告知が判明したため、消費者契約法に基づき売買契約を取り消した(記事「東急不動産の遅過ぎたお詫び」参照)。

 「バーリントンハウス馬事公苑」の件は、不動産購入における買い手の調査の重要性を再認識させた。一方、調査能力のある不動産業者でも問題物件を購入してしまう可能性があることも明らかになった。

 売り手は十分な調査をせず、反対に買い手が調査しなければならないのが不動産市場の現実である。

 買い手には十分な調査が望まれる一方、今後は物件に問題が発覚した場合、速やかに契約を白紙に戻す形での契約実務や裁判例が蓄積されていくことを期待したい。

(記者:林田 力)

【関連記事】
林田 力さんの他の記事を読む
【関連キーワード】
不動産

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080611-00000009-omn-soci