記事登録
2008年06月11日(水) 00時00分

【アキバ惨劇】(中)劇場犯罪 ネットで発信読売新聞

 2003年夏。加藤智大(ともひろ)容疑者(25)は青森市の小学校時代の同級生2人を誘って、初めて東京・秋葉原に足を踏み入れた。

 3人はテレビゲーム仲間で、その後も数回、秋葉原を訪れたという。「楽しそうにゲームをしていた様子だけが印象に残っている。こんな事件を起こすなんて想像できなかった」。同級生の一人は語る。

 茨城県土浦市で今年3月、72歳の男性が殺害され、4日後に同市内のJR荒川沖駅で8人が殺傷される事件があった。秋葉原はこの事件でも登場する。最初の殺人事件で指名手配された無職金川(かながわ)真大(まさひろ)容疑者(24)(鑑定留置中)は、8人殺傷事件の当日まで秋葉原のビジネスホテルに潜伏していた。金川容疑者は何度か秋葉原でゲームソフトを購入、この街で開かれたゲーム大会で準優勝した経験もある。

 1990年代にオタク文化の発信基地として定着、近年はIT産業の集積地としても世界に知られるようになった「アキバ」。そこに引き寄せられる人波の中に、惨劇を起こした2人はいた。

 1歳違いの同世代。「殺害するのは誰でも良かった」という理不尽な動機の殺人が相次ぐ中、連鎖反応が起きたかのように2人の供述も一致する。複数のナイフを所持し、次々と通行人を襲った手口も似ている。

 さらに共通しているのが、自己顕示とも受け取れる犯行前の言動だ。

 8人殺傷の前日に、名前を告げたうえで「早く捕まえてごらん」と110番通報していた金川容疑者。加藤容疑者は携帯電話サイトの掲示板を立ち上げ、事件当日の早朝から犯行直前まで、約30回もの書き込みで自分の行動の「実況中継」をしていた。5月19日から事件前日まで開設されていた別の掲示板には、凶器を準備する様子やその時々の心境が記されている。ネット空間の「劇場型犯罪」。

 84〜85年のグリコ・森永事件に代表される従来の劇場型犯罪は、犯行予告や警察への挑発行為が既存のマスコミにより報じられることで、初めて成り立っていた。しかし、今回の事件は、ネットを利用すれば誰の助けも借りずに自作自演できる可能性を示した。

 こうした風潮が加速すればどうなるか。西垣通・東大教授(メディア論)は、加藤容疑者の行動について「不特定多数の人々に犯行計画を公開することで、犯行を断念しかねない不安定な自分を支えていたようにみえる」と分析。ネットへの書き込みが、大それた思いつきを実行に導く牽引(けんいん)力になりかねない危険性を指摘する。

 8日午後の秋葉原では、現場の惨状を携帯電話のカメラに収める若者たちの姿もあった。画像の中には、ネットを通じ、不特定多数に送られたものもある。加藤容疑者がネットの聖地・アキバを現場に選んだことで、誰もが劇場型犯罪の演出者になりうる現実が浮かび上がった。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20080608-2810266/fe_080611_01.htm