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2008年06月11日(水) 02時13分

凶行の交差点で止血・人工呼吸、市民が医師が懸命救助読売新聞

 暴走トラックと凶刃の前に、17人が倒れた東京・秋葉原の無差別殺傷事件。地獄絵のような発生直後の現場で、懸命に応急処置にあたったのは偶然その場に居合わせた医師や通行人だった。「人の命を奪って自分の欲求を満たす犯人は許せない」。最初に駆け付けた医師の目には、今も路上に横たわる人々の姿が焼き付いている。

 「ドクターいますか」

 学会参加のため徳島市から上京し、秋葉原を散策していた産婦人科医、西条良香さん(39)は8日、助けを求める叫び声を聞いて、思わず声のする方向に走った。

 角を曲がると、歩行者天国だったはずの交差点に8人が倒れていた。近くの携帯電話ショップからタオルを借りて、胸や腹部、背中など、被害者の傷口を衣服をめくって止血した。

 次第に応援が増えてきた。気を失いそうな被害者に「しっかりしろ」と声をかける人、散乱した荷物を持ってくれる人——。中には、自分のカバンからタオルを取り出して慣れない応急処置にあたる若者もいた。「どちらかというと『アキバ系』と呼ばれるような見かけの若者たちが、よく助けてくれた」と振り返り、自身について「もっといい処置ができなかったか、後悔もある」とも。

 加藤智大(ともひろ)容疑者(25)が取り押さえられた路地の近くでは、若い女性がうつぶせで倒れ、背中から流れ出た血がアスファルトに広がっていた。そこにたまたま居合わせた埼玉県の男性(35)が、女性の傷口の上に両手を強く押し当てて止血しながら、携帯電話で119番通報した。

 男性は医療系大学の学生。3月には近所の消防署で救命講習を受講し、止血や人工呼吸の方法などを学んでいた。「自分の弱さから他人をあやめる犯人に怒りを感じる」と話した。

 東京都中野区の男性(34)は、ドーンという衝撃音を聞き、数メートル離れた場所に止まったトラックのそばに行った。周辺には4人が倒れ、路上に血が流れ出ていた。あおむけで倒れて意識を失っていた男性の元へ行き、素手で口に手をこじ入れて舌を出し、気道確保を急いだ。また、別の通行人2人と一緒に心臓マッサージや人工呼吸を試み、到着した救急隊に男性を引き渡した。

 写真が趣味で、当日も首からカメラをぶら下げていたが、事件の写真は1枚も撮らなかった。「目の前に倒れている人を救助したい一心だった」

 日本医科大付属病院(文京区)の横堀将司医師(33)は、医師や看護師らで組織する災害医療支援チーム「東京DMAT」の一員として、事件発生から約20分後、他のチームに先んじて現場に到着。負傷者の重症度や緊急性を判断し、搬送の優先順位を決める「トリアージ」にあたった。

 横堀さんは「居合わせた市民や医師が、AED(自動体外式除細動器)を持ってきたり、心臓マッサージを行ったりして、我々を助けてくれた。勇気あるボランティアのおかげで、その後有効な治療が行えたと思う」と振り返る。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20080608-2810266/news/20080611-OYT1T00135.htm