記事登録
2008年06月10日(火) 14時01分

東京・秋葉原通り魔:なぜ親より先に… 家族思いの若者無念 /埼玉毎日新聞

 祖母を回転ずしに連れていったり、母の行きたかった九州へ一緒に旅行した家族思いの若者2人が、東京・秋葉原の通り魔事件で突然命を奪われた。熊谷市河原町2の東京電機大2年生、藤野和倫(かずのり)さん(19)と、蕨市北町2の会社員、宮本直樹さん(31)。遺族は「何で親より先に逝ってしまうのか」と深い悲しみの声を上げた。
 熊谷市にある藤野さんの実家には時折、近所の住民らが弔問に訪れた。近くに住む父方の祖父、岡田健市さん(81)方には8日夕方、藤野さんの兄から「和倫が死んじゃったよ」と電話があった。健市さんは「3、4日前に会ったばかり。信じられない」と目を赤くはらして語った。祖母のユリ子さん(77)は「3月には回転ずしに連れていってくれた優しい子だった」と声を詰まらせた。「おばあちゃんどんどん食べていいよ。回っているのより、注文して握ったものを食べてね」と言ってくれたという。
 藤野さんは小学校を熊谷で過ごし、中学、高校は県西部の全寮制の私立に進学。東京電機大に入学してからは実家に戻り、2時間半かけて千葉県のキャンパスまで通っていた。情報処理の技術を身につけ、母方の祖父の公認会計士の仕事を手伝うつもりだったという。
 藤野さんの小学校時代の同級生だった男子大学生(19)は「柔道をやっていて、体が強かった。責任感も強いやつだった。事件の被害者が彼とは思わなかった。ショックです」と声を詰まらせた。
 宮本さんの川口市内の実家で、父惇彦(あつひこ)さん(60)は「息子は最近、女房の行きたいところへ連れていってあげようと九州に2人で旅行していた。何で僕らより先に逝ってしまったのか」と悲しみを押し殺すように語った。
 直樹さんは8日午前10時ごろ、母に見送られて秋葉原に向かった。事件を知った母が心配して直樹さんにメールを送ったが、返事がなかったという。
 近くに住む主婦(68)は「何かの間違いであってほしいと思っていたのに。今朝お母さんに会ったけど、とても声を掛けられなかった」と語る。
 毎週のように直樹さんと一緒に秋葉原へ行っていたという友人の母は「来週も一緒に行く約束をしていたのに、信じられない。息子はすっかり落ち込んで部屋に引きこもってます」と目に涙を浮かべて話した。
 ◇藤野さんが無言の帰宅
 9日午後8時40分ごろ、藤野和倫さん(19)は、無言の帰宅をした。兄ら遺族が涙を流しながら出迎え、ひつぎをゆっくりと家の中へ運び込んだ。

6月10日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080610-00000112-mailo-l11