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2008年06月10日(火) 12時06分

<秋葉原通り魔>なぜ掲示板で「予告・実況」? なぜ防げなかったのか?毎日新聞

 東京・秋葉原の通り魔事件で、容疑者の男は、事件を起こすまでの経緯を携帯電話サイトの掲示板に克明に記していた。過去にも犯行を予告する殺人事件はあったが、実況中継のように事件に至る経緯をつづるのは異例だ。アクセス方法さえ知っていれば、誰でも見ることができる手段を使って凶行に及んだ意図は。未然に防ぐことはできなかったのか。【清水健二、河嶋浩司、工藤哲、奥山智己】

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 ◇一方通行、危うく−−サイト掲示板

 希望する携帯電話サイトを探す方法は、パソコンでインターネット検索するのと同じだ。加藤智大(ともひろ)容疑者(25)が事件予告の書き込みをしていたのは、携帯電話でしか接続できないサイト「究極交流掲示板(改)」(究改)だった。

 サイトを開くと、さらにスレッド(特定の話題に関する投稿の集まり)の表示があり、今回「事件予告」をした書き込みは、「秋葉原で人を殺します」と表示されたスレッドにあった。掲示板は事件後アクセスが制限されている。

 「書き込みは、誰かに気付いてほしいという思いの表れだ」。そう分析するのは、NPO法人・東京自殺防止センター創設者の西原由記子さんだ。加藤容疑者にもそんな思いがあったのか。「友達できない」と題する、5月19日に立ち上がったスレッドには、仕事の不満や将来の不安について本人が書き込んだとみられる記述がある。

 当初は「冗談抜きで友達になりたい」と励ましの投稿もあった。事件当日までの書き込みは約3000件に上ったが、「私と友達になっても何のメリットもありませんよ」などと後ろ向きな発信を繰り返すうち、利用者が離れていったようだ。

 そして、当日の予告スレッドには本人以外の書き込みは見当たらない。本来なら不特定多数と接点を作ることができるのがネットだ。西原さんは「ネットの掲示板は、コミュニケーションが一方通行になり、追い詰められる危険がある」と話し、加藤容疑者が関与したとみられるサイトの状況が事件へと駆り立てたとの見方だ。

 教育カウンセラーの富田富士也さんの見解も同じだ。「孤独な若者は誰かとつながりたいと思っても、メッセージの伝え方が分からず、ネットの掲示板に書き込みをする。そこで返事がないと、孤独感が一層募る」。そのうえで、「誰かが『バカ』とひと言でも書き込めば、事件は起きなかった可能性もある。中傷が飛び交う掲示板の方が健全かもしれない」と指摘する。

 一方、今回の予告を、過去の事件と同様の「自己顕示性の表れ」ととらえる見方もある。小宮信夫・立正大教授(犯罪社会学)は「予告で、強いメッセージを発し自分も盛り上がる。若者の街の秋葉原を現場に選んでおり、社会への復讐(ふくしゅう)や反撃の意味が込められている」と分析する。

 福島章・上智大名誉教授(犯罪心理学)も、自己顕示性を指摘したうえで「携帯やネット社会の発達で、自分の存在を簡単に伝えられるようになった」とし、同様の犯罪が繰り返される危険性をはらんだ社会に警鐘を鳴らす。

 ◇届かなかった監視の目

 加藤容疑者が書き込んだと認める「事件予告」や、本人が書き込んだとみられる掲示板は、いずれも警察などの監視の網にかからなかったという。

 事件に関連する可能性のあるものとしては、先月27日にインターネットの掲示板にあった「5日以降に秋葉原で忍者姿の痴漢が刀を振り回し大惨事!」との書き込みだ。加藤容疑者によるものかどうかは不明だ。

 この書き込みに関する情報は、警視庁広報課経由で秋葉原を管轄する万世橋署に伝えられた。しかし、「捜査に動き出す具体的な情報ではなかった」(警視庁幹部)との理由から捜査の手が及ぶことはなかった。

 事件で仲間を募る際に使われる闇サイト、自殺の方法などを紹介するサイト……。ネットや携帯サイト上の違法・有害情報については、全国の警察個々による「サイバーパトロール」と、警察が財団法人「インターネット協会」に委託して行っている「インターネット・ホットラインセンター」が目を光らせている。

 闇サイトでの薬物売買や児童買春などについては、センターからの情報に基づき捜査しているが、今回の予告のように時間的余裕がないケースで参考になるのが、自殺サイトへの取り組みだ。警察庁は05年以降、接続業者などから成る団体に協力を求めて、自殺阻止に役立てている。07年には、121人の予告情報の通報を団体から受け、72人を救助している。

 元警察庁生活安全局長の瀬川勝久氏は「通信の秘密や表現の自由の兼ね合いもあり、国が絶対的な監視に乗り出すのも好ましくないが、新たな議論が必要な時期に来ている」と指摘している。

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