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2008年06月10日(火) 02時31分

秋葉原通り魔 被害者たち、夢への一歩断たれ毎日新聞

 その時、秋葉原に偶然居合わせたというだけで、理由もなく突然命を絶たれた被害者たち。あきらめきれない夢や将来があった。友や家族らは深い悲しみにくれながら、それぞれの言葉で愛する人への思いを語った。

 ◇武藤さん、音楽会社に内定

 「音楽で人を喜ばせたい」。武藤舞さん(21)はクラシックコンサートのプロデューサーを夢見ていた。在学していた東京芸大音楽学部では録音や音響を勉強し、音楽関連会社に就職が内定していた。アルバイト先の量販店店頭で携帯電話を販売していて刺された。指導する亀川徹准教授(47)は「彼女なら素晴らしいコンサートを企画できたはず。残念」と声を落とした。

 優しい性格とリーダーシップで親しまれた。都立日比谷高校の同級生(21)は「バンドでボーカルやキーボードを頑張っていた。カラオケで洋楽を歌うのがうまかった」と振り返る。最近は財団法人が開催するミニコンサートに参加し、高知県や山口県の老人ホームなどを回っていた。財団の小沢桜作さん(36)は「子供やお年寄りに人気だった。音楽の舞台に生きる舞台人としての一歩を踏み出したばかりだった」と悔しそうに話した。

 中学2年の時、中学生海外交流事業で米サンフランシスコに短期留学した。文集には「おいしかったのは生の果実をシェークのようにした飲み物。アメリカンサイズで飲みきれなくてもったいなかった」と現地での生活を描いた。一緒に留学した私立大4年、本間和基さん(21)は「1月に最後に会った時は、音楽の仕事の夢を語っていたのに」と話した。【杉本修作】

 ◇藤野さん、川口さんの友人「後ろにいた2人が…いない」

 東京電機大2年の藤野和倫さん(19)と東京情報大2年の川口隆裕さん(19)は、歩行者天国の交差点で加藤容疑者のトラックにはねられるなどして亡くなった。一緒にいた電機大の友人2人のうち1人がその瞬間を会員制サイトのブログに書き込んでいた。会員仲間からは励ましの書き込みが相次いだが、友人は「(加藤容疑者が)誰でもよかったと言っていることが許せない」と泣き崩れた。

 4人は8日朝、映画を見るためJR新宿駅で待ち合わせた。その後「食事でもしよう」と秋葉原へ向かったという。2人ずつ並んで歩いている時、トラックが右前から飛び込んできた。蛇行運転しタイヤがきしむ音が聞こえ、4人ともはねられた。友人はブログに「後ろにいた友達二人が…いない。ゾッとした」と書いた。藤野さんと川口さんはその場に倒れたまま帰らぬ人となった。

 「運命だから? そんなの残酷過ぎる…」友を失った悲しみと理不尽さを率直に書いたブログ。「かける言葉が見つからない」「無理すんなよ」「お友達のご冥福を祈ります」。哀悼と励ましの言葉が仲間から送られた。【弘田恭子】

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080610-00000002-maip-soci