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2008年06月10日(火) 08時00分

秋葉原無差別殺傷 白昼のパニック わずか5分の犯行産経新聞

 「ワー」と叫び声を上げながら、ナイフを持って走り出した−。7人の命が奪われ、10人が重軽傷を負った東京・秋葉原の無差別殺傷事件は、加藤智大容疑者(25)によるわずか5分間の犯行だった。買い物客や観光客らでごった返す「アキバ」での凶行。「撃つぞ」と拳銃を構えた警察官に威嚇されると、加藤容疑者は凶器をほうり投げ、あっけなく逮捕された。事件から一夜明けた9日までの目撃証言をもとに、犯行の一部始終を再現した。

 ≪ジグザグ≫

 「ドーン、ドーン」。鈍い音が響いたのは8日午後0時半ごろ。神田明神通りを走ってきた静岡ナンバーの2トントラックが赤信号を無視して歩行者天国との交差点に突っ込み、通行人3人をはねた。

 「交差点の手前からジグザグ運転だった。通行人を次々になぎ倒していった」。トラックの直近を歩いていた男性(39)はこう話す。現場近くの電器店員は「中年男性があおむけに倒れたまま、両手を天に向かってあげ、『うーっ』とうめきながら助けを求めていた」と振り返った。

 交差点ではねられた人が血を流しながらうずくまっている。難を逃れた人の大半は、何が起きたのか理解できずに立ち尽くすだけだ。近くにいた警視庁万世橋署の男性警部補(53)らが異常事態に気づき、救命措置を始めた。「心肺蘇生(そせい)しろ。AED(自動体外式除細動器)で心拍数を計れ」。現場に居合わせた男性医師が大きな声で指示を出していた。

 ≪馬乗り≫

 暴走トラックは交差点を通過し、約50メートル先の路上で停止。運転席からスルリと降りてきたベージュのスーツ姿の加藤容疑者は、交差点に戻り、倒れている負傷者に近づいた。大の字になっている男性に馬乗りになると、突然、両刃の殺傷力の高いダガーナイフを突き刺した。男性を助け出そうとしていた警部補の脇腹もためらわずに刺した。

 「背後から抱きつくような感じで警察官を刺した。映画か、ドラマの残酷なシーンを見るようだった」(電器店員)という。

 事故の衝撃音で近くの交番を飛び出した男性巡査部長(41)は、同僚の警察官が刺されて倒れ込むのを目撃し、慌てて駆け出した。通行人もようやくただならぬ事態を把握。悲鳴を上げながら、群衆が波のように動き始めた。

 「(加藤容疑者は)右手にナイフを持ち、口を大きく開けて恐ろしい形相だった。『殺される』と思って頭が真っ白になり、駅方向に必死で逃げた」「数百人が一斉に動いた。津波が来たかのように、みんなが走り出してパニック状態になった」…。

 騒然とする現場。加藤容疑者は「飛行機みたいに手を広げ、蛇行しながら駆け抜けていった」(自営業の男性)。交差点の真ん中付近で女性の腹部を刺し、歩行者天国を南下しながら、別の男性を刺して逃走。ナイフを握り、一心不乱に振り回していたという。

 ≪返り血≫

 交差点から約50メートル。交番から追い付いた巡査部長が警棒を取り出し、加藤容疑者と向き合った。「少し距離を置き、チャンバラのようにもみ合っていた」(免税店の男性店主)。加藤容疑者は額から血を流し、スーツも返り血を浴びて真っ赤に染まっていた。

 「ナイフを捨てろ。撃つぞ」

 巡査部長は壁伝いに路地に追い込み、拳銃を抜いて加藤容疑者に向けた。加藤容疑者がナイフを地面にほうった瞬間、巡査部長ら3人の警察官が組み伏せた。午後0時35分、殺人未遂の現行犯で逮捕。パトカーに乗せられる加藤容疑者の表情はさめていた。

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