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2008年06月10日(火) 07時50分

【特報 追う】「印象薄い」秀才の転落 秋葉原通り魔事件の加藤容疑者 産経新聞

 携帯電話の掲示板に犯行を予告し、その男は予告通り、次々と人の命を殺(あや)めていった。衝撃を与えた東京・秋葉原の無差別殺傷事件。しかし、逮捕された加藤智大容疑者(25)の幼少時代を知る人々は一様に「あの子がなぜ」と驚愕(きょうがく)の声を挙げる。幼いころから秀才と呼ばれ、将来を嘱望された加藤容疑者。どこに凶悪な犯行への萌芽(ほうが)があったのか。(豊吉広英、米沢文、荒船清太)

 青森市郊外の閑静な住宅地に立つ薄緑色の一軒の民家。建物の周囲に敷き詰められた玉砂利の間から、ピンクや白の草花が無造作に咲き乱れている。加藤容疑者が高校卒業まで生活していた実家だ。

 「以前だったら、花が咲くまで雑草が生えるなんて今みたいな状態は考えられないぐらい、きれいに整えられていたよ」と話すのは、毎日イヌの散歩で加藤容疑者の自宅前を歩く女性。「家の中も外もきっちりとしていた。だから家族もみんなきっちりしていると思っていた。人の家は、わからないものだ」

 知人らによると、青森市内に生まれた加藤容疑者は、この家で両親と弟の4人で暮らしていたという。父親は地元金融機関に勤務し、母親は雪かきや花の手入れを熱心にするおとなしい女性。そして、一家は、教育熱心でも知られていた。

 「兄弟そろって優秀な子供だった」と話すのは、加藤容疑者と弟が小学校時代に習っていた珠算教室の経営者だ。

 「熱心じゃなかったけれど、集中力があった」。持ち前の集中力と能力。加藤容疑者はいつしか、周囲の誰もから「勉強ができる子」として知られるようになった。

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 中学時代はクラスのリーダー的存在で、ソフトテニス部でも活躍していた加藤容疑者。高校は、県内最難関で、大学進学率が高い進学校に入学する。ただ、すんなりと入学に至ったわけではないようだ。加藤容疑者は中学時代から家庭内で暴れていたという。「母親が教育に厳しかったから、反発する気持ちが強かったんじゃないだろうか」。近所の女性は、加藤容疑者の心情をこう代弁する。

 秀才といわれてきた加藤容疑者も、高校に入学すると、目立たない生徒になった。加藤容疑者が在学した学年の副主任だった男性教頭(59)は「卒業アルバムを見て思いだした。校内でも家庭でもトラブルもなかった。理系で成績も悪くなく、目立たず、印象が薄く、ごく普通の子だった」という。「今でも信じられないし、うそであってほしいと思っている」。イメージと犯行とのギャップに教頭は困惑を隠せない。

 だが、このころから、加藤容疑者の様子が変わってきたとみる知人もいる。息子が加藤容疑者の同級生だったという女性は「加藤容疑者が高校に入ってから、何かマニアックな部分が出てきたと聞いたことがある」と話した。

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 優秀な子。そのレールを外れたのは高校卒業後のことだった。卒業生の多くが4年制大学を進学先に選ぶ中、加藤容疑者が選んだのは、岐阜県にある自動車整備士を養成する短大。「小さいときから理科が好きで、『将来、技術者になりたい』といって、進学したようだ」と高校の先輩にあたる近所の男性はいう。

 同短大によると、加藤容疑者は平成13年4月に同短大自動車工業科入学、学内にはその後、青森県内の別の大学に編入したという記録が残されている。「成績はかなり上位だったが、特に目立った生徒ではなかった。ただ、進学校からうちの短大に入学するのは極めて珍しいし、生徒の7割が自動車整備士になるなかで、別の大学に移るのも珍しい」

 その後、加藤容疑者の実家では、弟も自宅を離れていった。昨秋には、母親が家を出て、父親が1人で生活するようになった。自宅は荒れた植木が目立つようになった。雑草が茂る庭を見て、近所では心配する声が上がっていた。

 父親は事件発覚後、車で自宅を出たまま、戻ってきていないという。主の帰宅を待つように、自宅の玄関には、女の子の人形が一体、壁に飾られていた。

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