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2008年06月10日(火) 00時00分

(5)優しさ 励ましたくなる読売新聞

中学生の時から太宰作品を愛読している押切さん

 「今、太宰を読み返しているんですよ」。すらりと長い指が、ルイ・ヴィトンのカバンから「人間失格」の文庫本を取り出した。表紙はボロボロ。読み込まれていることが分かる。

 今をときめく人気モデルの押切もえさん(28)は、大の太宰治ファン。プロフィルを書くとき、趣味の欄には「読書(太宰治)」と念を押す筋金入りだ。「人間失格」は、中3で“蔵書”に入った。

 初めて読んだ太宰作品は「走れメロス」。略歴に「心中」の文字を見つけて、なぜか胸がそわそわした。

 当時は中学の2年生。「どんな男の人かなと気になって。思春期なのに、男の人と触れることなんてなかったから」。以来、太宰に没頭した。

 「寂しがりやで傷つきやすい。でも、それはよく人を観察して優しいからじゃないかな」。押切さんの太宰像はこんな感じだ。

 そう思ったのは、自身の初DVD「愛ゆえの孤独 太宰治の世界」の撮影で、太宰の故郷・津軽地方を訪ねたことが大きい。生家の「斜陽館」は豪奢(ごうしゃ)で、名家ぶりを物語る。だけど、太宰を知る人は「気軽に話しかけてくれるいい人だった」と口をそろえていた。

 津軽の人も優しかった。ストーブ列車では、同席したおばちゃんに水筒のお茶を勧められ、ほろりとしてしまった。寒い地域で、人が助け合いながら生きている——。太宰の優しさのルーツを知った気がした。

 DVDは2006年11月に販売されると、「文部科学省選定映像作品」になった。お堅い役所も、粋な計らいをしたものだ。

 いま、目の前にナイーブな太宰が現れたら、やっぱり好きになっちゃうの?

 押切さんは、少し考えて「逆に励ましちゃうかな」と一言。「あなたは合格。誰よりも優しく、人の痛みが分かるのだから、頑張って元気出してって」

 大学生向けのファッション雑誌で注目され、昨年からは少し年上の「AneCan」専属モデルになった押切さん。太宰への思いも、ちょっぴり“お姉さん目線”になったのかも。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231212425875707_02/news/20080617-OYT8T00670.htm