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2008年06月09日(月) 17時18分

秋葉原通り魔事件 「逃げろ」悲鳴 被害者の父悲憤「なぜ死んだ」産経新聞

 惨劇は8日午後、日曜日の歩行者天国で起きた。家電やオタク文化の街として知られる東京・秋葉原。「群衆が急に、津波が来たかのように走り出した」。加藤智大容疑者(25)は大声で叫びながらトラックから降り、両刃ナイフで通行人に襲いかかった。女子大生らが次々と倒れ、血だまりの路上を数百人が悲鳴とともに逃げ惑った。「まだやりたいことがあっただろうに…」。理不尽な凶行に言葉を失う遺族たち。池田小の児童8人殺害事件も7年前のこの日だった。

 「何で死んだんだ。ばかやろう」。死亡した東京情報大2年、川口隆裕さん(19)の父、健さん(53)は遺体に対面してそう漏らし、「もう動かないんだな。守ってあげられなくてすまん」と謝った。

 1人息子の隆裕さんは生後、肺に異常が見つかり、薬で肺を膨らませて生命が助かった。その後も肺の病気を抱え、昨年の大学入試直前に手術。先月9日にも肺気腫の手術を受け、退院したばかりだった。テレビゲームが好きで、パソコンによく向かい、大学では情報系の勉強をしていた。

 「今時の若者で腹が立つこともあったけど、出来が良くなくても、服装がだらしなくても、とにかく生きていてほしかった」

 長男とともに秋葉原を訪れていて事件に巻き込まれた歯科医の中村勝彦さん(74)と搬送先の病院で対面した妻(74)は「まだやりたいことがたくさんあったと思う。無念としか言いようがない」…。

 中村さん方では夫婦で歯科医を営んでいた。8日午前、パソコン関連の買い物のため、めったに行かない秋葉原に長男と2人で出掛けた。「昼ご飯を済ませてくるからね」。出がけの元気な声が最後の言葉になったという。

 21歳で犠牲になった武藤舞さんは、東京芸大の音楽環境創造科の4年生。来春から社会人として働くことを楽しみにしており、小さなホールでコンサートを開くことが夢だったという。

 指導に当たっていた亀川徹准教授(47)は「演奏家を支えるマネジメントや企画の仕事を希望しており、就職活動でも内定を複数もらっていた」。「7日に卒業論文の相談を受けたばかりで『月曜日に続きをやろう』と話したのに」と絶句。都立日比谷高校で同級生だった大学2年の男子学生(22)は「クラスのムードメーカーでみんなを引っ張るタイプだった」と、早すぎる死を悔やんだ。

 東京電機大2年、藤野和倫さん(19)=埼玉県熊谷市=は、友人と映画を見る予定で家を出て、事件に巻き込まれた。公認会計士をしている祖父の広治さん(81)は「孫だが、私には娘しかいないので養子にしていた。藤野家の跡継ぎにと決めていたのに…」と唇をかんだ。

 また、調理師の松井満さん(33)=神奈川県厚木市=の両親、弟とみられる3人は、9日未明に帰宅。終始無言で、悲しみにくれたようにうつむいたまま玄関に入った。帰宅後は雨戸が閉まり、ひっそりとした空気に包まれた。近所の主婦(52)は「ご両親には言葉のかけようがない。松井さんと家族の歴史を断ち切ったことに怒りを覚える」と話した。

                   ◇

 【亡くなった方々】

 東京・秋葉原の無差別殺傷事件で亡くなった方は次の通り。(警視庁発表などによる)

 東京芸大4年、武藤舞さん(21)=東京都北区浮間▽調理師、松井満さん(33)=神奈川県厚木市森の里▽大学生、川口隆裕さん(19)=千葉県流山市南流山▽会社員、宮本直樹さん(31)=埼玉県蕨市北町▽大学生、藤野和倫さん(19)=埼玉県熊谷市河原町▽歯科医、中村勝彦さん(74)=東京都杉並区下高井戸▽無職、小岩和弘さん(47)=東京都板橋区新河岸

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