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2008年06月09日(月) 19時23分

サザン・活動休止宣言に寄せてオーマイニュース

 1978年のデビューから30年。ずっとサザンを聴いてきた。彼らとともに年齢を重ねてきた、という感覚がある。同時代を歩き続けてきたそのグループが活動休止だという。一部では、解散とも報じられた(5月12日付『東京スポーツ』)が、所属会社であるビクターのサイトに公式のコメントとして「活動休止宣言」が掲載されている。

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 1978 年、『勝手にシンドバッド』で出てきたときは、彼らの目指していた音楽を理解する力がなかったせいもあるが、新しいコミックバンドなのかなくらいにしかとらえていなかった。歌のタイトルからしてパロディー。沢田研二の『勝手にしやがれ』とピンクレディの『渚のシンドバッド』、冗談としか思えない。

 しかし、彼らにはしたたかな計算があったらしい。近田春夫氏だったか富澤誠一氏だったか、今その出典が見当たらないのだが、どこかで、サザンのデビュー曲について、「極めて明確な意図をもった、実に先進的なものだった」と書いていたかと思う。事実、どの曲も30年たった今でもそれほどの古さを感じない。ただ長く聴きなじんでいるせいでそう思うのかも知れないが、アップ・トゥー・デイトな雰囲気は消えていない。分かる人たちには、それがきっと分かっていたのだろう。しかし大方の素人には、まじめに受け取るべきものとは思えなかった。

 ところが3曲目の『いとしのエリー』(1979年)で、表現がやや大げさになるが、みんな度肝を抜かれた。ビートルズの『ミッシェル』を模した感は否めないが、この曲で多くが、桑田佳祐捨て置けず、と認識を新たにしたことだった。「もうこれで桑田は、なんでも OKだよね」「きっとこの曲を私たちはずっと歌っていくのよね」と友人たちは口々につぶやいた。事実その通り2枚目のアルバム『10ナンバーズ・からっと』から記者はずっと聴き続けることになって、気がつけば、彼らと一緒に年齢を重ねてきた。

 周年記念盤と称して発売された『すいか』や『海のYeah!!』、初のバラードベスト『バラッド』や、限定発売だった『HAPPY!』などなど、いずれも大切なコレクション。2000年8月の桑田佳祐の地元茅ヶ崎で行われた、今や伝説の感もある茅ヶ崎球場でのライブにも参加した。

 サザンでも桑田単独でも、その曲は時代に敏感で、彼なりの批判精神にあふれている。『ミス・ブランニュー・デイ』(1984年)あたりがその代表格かと思われる。おそらくそうした姿勢も、30年という時間の素因なのだろう。どんな娯楽も時代と無縁ではいられない。

 1990 年制作の自身監督映画『稲村ジェーン』は、内容・構成ともに合格点とは言えないが、桑田の内部の必然性は受け止められた。暑さと喧噪(けんそう)、届かぬ夢、実に分かりやすい主題だった。人にどう言われようと桑田自身は、よく納得し、大切にしているのだろう。10年ほど前だったか、桑田佳祐は稲村ヶ崎の 134号線沿いに別荘を建てているのだが、そのこだわりが彼の内部にあっての映画の位置づけの証しであるに違いない。

 桑田佳祐ばかりではない。これまで出されている原由子のオリジナルやベストのCDもそれなりに聴き応えがある。関口和之の、4月23日に第2弾が発売されたばかりの『口笛とウクレレ』の心地よさも格別。サザンは優れた才能の集団である。

 ユーミンとかさだまさしとか、ほぼ同年齢で、同じ時代を生きて、その成熟を自分のそれと重ねながら関心を寄せうる表現者たち。70年代にフォークから変容する形で発したいわゆる「ニューミュージック」は、そのような評しかたでひとくくりにしうる多くのアーティストたちを生み出している。桑田佳祐とサザンオールスターズもその1人、その1グループ。われわれの世代は、現在に至るまでの、その時々を振り返りながら、そうした表現者たちとともにあることを喜びとすることができる。

 このたびの「活動休止宣言」の真意がどこにあるのか。遠いところで聴くだけでしかないファンの1人としては結局は本当のところを理解できない。耳目を集めるだけの、夏のライブの単なる前宣伝でしかないのかも知れない。あるいはしばらく置いて、再開をマーケットにのせる単純素朴な戦略の可能性も否定はできない。それでも、ある時期、それまで継続させ続けてきた人生の重大事に、区切りをつけたいと思う気持ちは、同世代の者として深いところで共感できるのである。

 忘れたいことばっかりの春だから
 ひねもすサザンオールスターズ   俵万智

(記者:石川 雅之)

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