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2008年06月09日(月) 15時52分

「世界」をつかんだバレーボール男子日本代表オーマイニュース

 日本が北京への切符を手にした女子世界予選に続き、男子の世界予選東京大会は5月31日に開幕した。日本は開幕戦で、不利と言われたイタリア相手に、何とフルセットの死闘を展開。敗戦はしたものの、その後イランを3-1で一蹴。続く韓国・タイも撃破し、アジア枠最大の強敵と目されたオーストラリアにも3 -0で勝利。日本は7日の対アルゼンチン戦を前に、アジア枠の「マジック1」を点灯させたのである。

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■息詰まる攻防

 アルゼンチン──世界ランキング6位は今予選参加国中最高。昨年のW杯7位。高さあり、速攻あり、技術ありのテクニシャンだ。一方日本は世界ランキング 12位、W杯9位。だが何と言っても今年は植田監督のチームが熟成。体力とスピードを強化し、伝統の速攻・コンビネーションバレーを進化させてきた。しかも今回は、縦横を駆使した世界最先端の3Dの速攻バレーだ。

 だがその日本、大一番の対アルゼンチン戦では、残念ながら地に足がついていなかったようだ。第1セット開始早々、レシーブが不安定でミスが目立つ。7-9と2点差をつけられ、一度は逆転したが、最後は強打で突き放され26- 28。絶対に欲しかったファーストセットを奪われてしまった。

 しかし、ここが「植田マジック」の見せどころだ。第2セット、日本は驚くほど冷静さを取り戻していた。ゴッツ(石島雄介)のフェイク、山本の1枚ブロックポイント……いずれも状況を瞬時に見極めないとできないプレイだ。もちろん、クイックA・B・C・Dにバックアタックを加えたコンビネーションも発揮。スコアは25-13だった。セットカウント1-1。

 波に乗る日本、相変わらずミスの多いアルゼンチン。第3セットも11-6と楽勝ムードが漂う。だが、サーブレシーブのミスをきっかけにあれよあれよという間に 11-11。だが、ここでまた植田マジックがさく裂する。越川に代えて起用されたのは、ほかでもないキャプテンの荻野だった。

 記者は再び72年・ミュンヘン五輪を想起する。あの準決勝の対ブルガリア戦、1、2セットを連取され、第3セットも大きくリードされた日本を救ったのは、キャプテンの中村祐造とベテランの南将之だった。この2人は準決勝の逆転勝ちの立役者となり、決勝でも活躍している。

 荻野はまさに、36年前の中村と同じ役割を果たした。精神的支柱を得た日本は、4連続得点。これでペースを取り戻した。Bクイックをおとりにさらに大外からたたき込む山本の大技。サービスエースを決めたゴッツならではのガッツポーズ。場内は大興奮だ。25-19。日本は第3セットも奪い、いよいよ北京に大手をかけたのである。

■激戦の果てに……

 だが、またしてもここに日本にとっての壁があった。いつも第3セットまでは善戦する。しかし体力の限界か、集中力が切れるのか、試合終盤に崩れ第4セットを失い、第5セットは見るまでもなし……というパターンが多すぎるのだ。

 この日の第4セットも、その兆候があった。第3セットの、あの押せ押せムードを維持できないのである。ずるずると失点する日本。ベテラン宇佐美大輔投入の効果もなく、17-25と簡単に失ってしまったのだ。

 ところが、この日の日本はここで奇跡を起こした。第5セット開始早々、日本はいきなりリードを奪う。7-3の4点差。そこから8-6とされるも、山本や伏兵松本慶彦の活躍で11-7。だが、この試合に負けると北京行きがなくなるアルゼンチンもエルナンデスを中心に変化に富んだ攻撃で攻めてくる。14- 14。ここからまたデュースの繰り返しだった。だが、18-18からついに試合が動く。日本はアルゼンチンのサーブをよく見極めた。ボールはアウトバウンドして19-18。そしてマイボールサーブから最後は荻野が決めて20-18。勝負は決まった。男子日本代表、バルセロナ以来16年ぶりのオリンピック出場決定。

 スタジアムDJは「しばらくここを動きたくない気分です」と言っていたが「ミュンヘン世代」の記者もまったく同感だった。この現場に立ち会えたことを本当にうれしく、誇りに思う。

 さて本大会、植田監督は「メダルを狙います」と言ったが、はっきり言ってかなり難しいだろう。だが、あきらめる必要はどこにもない。今回の日本代表はあの 72年のチームと比べても見劣りはないと思われるのだ。そして奇跡は、神様ではなく、鍛え抜かれた人間が起こすものなのである。

(記者:生田 正博)

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