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2008年06月09日(月) 14時23分

理不尽な落命…東京芸大生、就職内定もむなし読売新聞

 突然の凶行で7人が命を奪われた。病院に駆けつけた家族たちは無念の思いを募らせた。

 東京芸術大学音楽学部音楽環境創造科4年生の武藤舞さん(21)は右脇腹を1か所刺され、傷は肝臓まで達していた。搬送先の東京医科歯科大付属病院での懸命の治療にもかかわらず、事件から約4時間後に亡くなった。

 ニュースで武藤さんの名前を見つけ、驚いて現場に駆けつけたという高校の同級生男性(22)は、花束やペットボトルのお茶の前で手を合わせ、「合唱祭でリーダーになるなど、明るい子だった。理不尽な亡くなり方で、とにかく悔しい」と肩を落とした。

 武藤さんは、東京芸術大で環境音楽を専攻し、音響や録音について研究していた。1年生の後半から武藤さんを指導していた亀川徹准教授は9日昼すぎ、「将来はコンサートの企画の仕事を希望し、熱心に就職活動をしていたのに」とがっくりした表情で語った。

 武藤さんは、事件前日の7日は深夜まで実習で学校に残り、亀川准教授に「一つ内定をもらったが、そこに行こうか悩んでいる」と相談したという。9日夕に改めて会う約束をしていたが果たせず、「あの時じっくり話しておきたかった」と無念そうに話した。

 都立日比谷高校時代はオーケストラ部に所属し、バイオリンのパートのまとめ役として活躍。顧問だった岩間輝生教諭(60)は「部活動以外でも、クラスの演劇の中心になるなど、色々なことに挑戦する生徒だった」と振り返った。

 ◆無念の遺族「悔しくて、悔しくて」◆

 東京電機大2年生の藤野和倫さん(19)と東京情報大2年生の川口隆裕さん(19)は、交差点に突っ込んできた加藤容疑者のトラックにはねられるなどして、命を落とした。この日は、友人2人と秋葉原で待ち合わせをし、映画を見る予定だった。

 9日未明、藤野さんの父親(50)は埼玉県熊谷市の自宅で、「悔しくて悔しくて。悪い夢を見ているような気がして。もう突然のことで。息子がかわいそう」と声を振り絞った。9日朝には、同居する祖父、広治さん(81)が自宅前で「私は腰が痛くてばんそうこうをしているが、孫がはってくれたのが最後」と話した。

 川口さんの父親の健さん(53)は警察から、川口さんがはねられた後、トラックから降りてきた加藤容疑者に刺されたと説明を受けた。川口さんは5月上旬に肺気腫(きしゅ)の手術を受け、外出を再開したばかり。8日午後11時すぎ、万世橋署で一人息子に対面した健さんは「何で死んだんだ。守ってあげられなくてすまん」と声をかけた。

 「日中に何でこんなむごい死に方をしなければいけないんだ」

 東京都杉並区、無職中村勝彦さん(74)は歯科医師で、今年4月に現役を退いたばかりだった。長男とパソコン関係の買い物に出かけ、事件に巻き込まれた。「昼ご飯を食べて来るからね」。2人はそう言って機嫌良く出かけたという。

 妻(74)は「正義感の強い人だった」と振り返り、「まだやりたいことがたくさんあったと思う。子や孫の将来を心配しながら亡くなったと思います」と悔しさをにじませ、「無念としかいいようがありません」と消え入りそうな声で話した。

 宮本直樹さん(31)の父、惇彦(あつひこ)さんは9日午前、埼玉県川口市の実家で、「昨日、(直樹さんの)顔を見て確認した。何も話したくない」と言葉少なに語った。

 神奈川県厚木市の松井満さん(33)は、調理師学校や横浜市の栄養専門学校で料理などを学んだ。近所の男性(30)は、「幼いころ、よく遊んでくれたいい人だった」と肩を落とした。

 東京都板橋区の小岩和弘さん(47)の遺族は、警視庁を通じて、「私達は故人をしのんで静かに見送りたいと存じます」というコメントを出した。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20080608-2810266/news/20080609-OYT1T00180.htm