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2008年06月08日(日) 15時10分

<一から分かる>後期高齢者医療制度(2止)小泉改革、高齢者置き去り毎日新聞

 高齢者医療は、その時々の政治に振り回されてきた。最初が73年の老人医療費(70歳以上)の無料化。自民党には老人票取り込みの思惑があった。無料化が受診増を呼び、高齢化や医療技術の進歩などもあり、医療費は増加の一途に。ただ、経済は基本的に順調で矛盾が噴出することはなかった。

 83年には老人保健制度ができ、財政面をカバーした。それがバブル崩壊で、行き詰まりが一気に露呈した。

 「医療保険財政は赤字構造に変わり、国民皆保険制度が崩壊しかねない危機的状況」。厚生省(当時)の医療保険審議会は96年にまとめた建議書に、高齢者だけの医療制度を00年までにスタートさせることを盛り込んだ。

 だが、下野を経験した自民党は、医師会などの反発に敏感だった。政治が二の足を踏んでいる間に、高齢者の多くが入る国民健康保険を中心に財政危機が進んだ。

 01年に「聖域なき構造改革」を掲げる小泉純一郎首相が登場。改革のエンジン役となった経済財政諮問会議は、医療費膨張を強く問題視した。

 02年2月、小泉元首相は「三方一両損」の改革で、サラリーマン本人の窓口負担を03年度に3割に引き上げることを決定。「高齢者と現役世代の負担が不公平になる」との反発に配慮し、新制度創設を関連法案付則に盛り込んだ。

 独立案は10年以上前からあったが、厚生労働省は当時、意外にも消極的だった。坂口力厚労相(当時)が02年9月、高齢者は国保など従来の制度に加入したまま制度間で財政調整する、老人保健制度の手直しに近い改革案を出したほどだ。

 だが、高支持率を背景とする小泉元首相の意向がまさった。03年3月、75歳以上を独立保険とすることなどが柱の改革方針が閣議決定された。

 05年9月、郵政選挙で圧勝した小泉元首相は「小さな政府」路線をひた走った。最大のターゲットが医療費で、25年度に56兆円になる給付費を48兆円に抑えるのが主題。そこでは、高齢者の窓口負担増が中心。「いい医療をどう実現するかが欠落している」(厚生族)などの指摘は大きな声にならず、05年12月、医療制度改革大綱が決まった。新制度も盛り込まれたが、突っ込んだ議論は少なく、75歳の線引きが確定した。

 新制度の議論が深まらなかったのは翌年の国会審議も同様。巨大与党のパワーは圧倒的で、高齢者の感情に配慮した意見はほとんど聞かれず、改革関連法は6月、成立した。

 厚生省の審議会委員を長く務めた医事評論家の水野肇さん(80)は「小泉元首相がやったのは政府の予算を削ることだけ。後は財務省に丸投げした。こんな安易な方法では、低成長下での社会保障や医療制度の問題は解決しない」と批判する。

 小泉元首相は「(反発は)感情論」「若い人が(負担に)困るから新制度にした」などと話しているという。

 ◇Q・与党の見直し案の中身は?

 まず、年金収入が年80万円以下の人の保険料(「均等割り」)を9割減額する(現行は7割減)。153万円超〜210万円以下の人は、保険料のうち「所得割り」部分を4段階で減額する。実施は09年度の予定だ。

 今年度は、均等割りが7割減額の人から10月以降、保険料を集めないようにする。減額率は年ベースで85%。また所得割りも、210万円以下の人は一律50%減らす予定。

 年金天引きも、年収などにより、本人が申請すれば、同居の家族らの口座からの引き落としが可能になる。

 終末期の治療方針を文書化して説明すれば医師に報酬が出る「終末期相談支援料」は、「延命中止を無理強いする」などの批判が強く、廃止を含め見直す。高額の延命治療を減らすのが目的だった。

 ◇Q・担当医制度とは?

 新制度の柱の一つ。原則1人の医師がかかりつけ医として、継続、総合的に診察する。糖尿病など慢性病患者が対象で、月1回定額の「後期高齢者診療料」(6000円)を支払うと、多くの治療や検査は何度受けても新たな負担が不要になる。患者の窓口負担は1割なら、600円(薬代などは別)だ。

 高齢者は複数の医療機関で似たような検査を受け、同じような薬を処方されるケースが多い。この制度は1人の医師が全体を把握し、また報酬の定額制を導入することで、過剰診療をなくし医療費を抑える狙いがある。

 担当医を持つかどうかは自由で、仮に担当医を決めても、他の医療機関にかかるのは可能。複数の地方医師会は「何をやっても報酬が定額なら、必要な治療さえしない利益優先の医師が出てくる」と反対している。

 横浜市港北区の開業医(70)は「どの医師が担当医となるかでトラブルがおきやすい。結局、患者さんが困る」と話す。【山崎友記子】

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 ■与党見直し案のポイント

 ▽保険料の軽減

・基礎年金以下(約80万円)の人は、均等割りを9割減額

・年金収入210万円以下の人は、所得割りを100〜25%減額

 ▽保険料の年金天引き

・家族の口座からの引き落としを可能に

 ▽診療報酬見直し

・後期高齢者終末期相談支援料は廃止を含め見直し

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