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2008年06月08日(日) 16時21分

<一から分かる>後期高齢者医療制度(1) 「低所得者は軽減」根拠なし毎日新聞

 75歳以上の全員と65歳から74歳までの重度障害者の計約1300万人を加入者とする後期高齢者医療制度がスタートして2カ月。「分かりにくい」との批判はいまだに強く、政府・与党は見直し案づくりに追われる。2回目(6月13日)の保険料天引きを前に、2回に分け、新制度の仕組みや負担の変化を整理する。【有田浩子】

 ◇Q・新しい制度の狙いは?

 75歳以上の高齢者は3月まで、下の世代と同様に国民健康保険組合や各企業の健保組合などに加入していた。だが、高齢者の加入率に差があり、そのままでは負担が不公平になることから、老人保健制度を作り財政面は一本化を図った。財源には、各保険からの拠出金と公費を充てた。

 ただ、高齢者と現役世代の負担割合が明確でなく、医療費が膨張し拠出金が際限なく増え続ける恐れもあった。誰が医療費を抑制するかも不明だった。

 新制度は、公費割合は5割のままで、現役世代の支援金が4割、75歳以上の保険料が1割と負担割合を明確にした。都道府県ごとの「広域連合」に責任を持たせた。

 3月まで75歳以上の人が全体でいくらの保険料を負担していたかが分からないため、高齢者の負担の変化は比較できない。

 各保険の負担は07年度比で計約7200億円減ったが、大企業対象の組合健保、公務員の共済組合の加入者が負担増になる一方、中小企業中心の政管健保や国保は負担が減り、一様ではない。

 また、高齢者と現役世代の負担割合は変わる。固定すると、少子高齢化で現役世代の負担が重くなり過ぎるからだ。2015年には、高齢者の保険料率は10・8%になるとの試算があるが、現役世代の支援金も現在の1人平均年3万1000円が4万6000円にはね上がる。高齢者だけの問題ではない。

 ◇Q・個々の保険料の変化は?

 新制度の財政は広域連合が責任を負うためか、政府は全体状況を把握していなかった。にもかかわらず、「低所得者は負担が軽くなる」と説明。それが国保会計に独自に税を繰り入れ、保険料を低くしていた自治体を中心に基礎年金(年79万円)だけの世帯でも負担増となるケースが判明し、不信感を強めた。

 経済ジャーナリストの荻原博子さんは「年齢や世帯構成、収入、住んでいる市町村など保険料に影響を与える要素は千差万別。それを事前に、国が詳しく把握しておくのは当然」と批判する。

 負担が増える可能性が大きい主なケースは次の通りだ。

 ◆会社員の息子(世帯主)に扶養される

 福岡市のAさん(78)は息子(年収500万円)夫婦と同居し、年153万円の年金を受給する。これまでは被扶養者で負担はゼロ。新制度は個人単位で判定する「所得割り」と世帯単位でみる「均等割り」の2本立て。収入が153万円以下では所得割りはゼロだが、均等割りは息子の収入が影響し軽減対象とならず、福岡県は年5万935円。これが負担増になる。ただ当面、軽減措置はある。

 ◆75歳超で会社員として働き妻を扶養

 Bさん(77)は妻(75)と大阪市内で暮らす。年金160万円のほか知人の会社で働き月15万円稼ぐ。妻は年金40万円。夫婦合計で年380万円だ。負担は3月まで、Bさんの健康保険料年7万3800円だけ。新制度では折半の会社負担がなく、Bさんの保険料は14万7235円に倍増。妻は初年度は2370円だが、2年後に軽減措置がなくなり4万7415円になる。

 ◆国保の所得控除が大きい自治体に居住

 浜松市のCさん(77)は年金201万円で、年金79万円の妻(77)と暮らす。同市の国保は保険料を「住民税方式」という所得控除が大きいもので算定し、負担は年約7万3400円。だが新制度は、所得割りの控除額が小さくなるため、この部分の負担は数百円から3万円超にアップ。保険料は2人合わせ9万400円になった。住民税方式は東京23区、横浜、名古屋、神戸など39市区町村で採用している。

 ◇Q・なぜ年金から天引きするの?

 介護保険を踏襲しているためだ。年金額が年18万円以上の人を対象とするのも、介護保険と一緒。低年金者に配慮し、新制度と介護の保険料の合計が年金額の半分を超えない場合に天引きしている。

 天引きについて、政府は高齢者自身の手間を省くことを理由の一つに挙げているが、それ以上に行政コスト削減を望む市町村からの要望が強かった。

 介護保険が18万円を基準にしたのは、65歳以上の高齢者の8割が対象となるため。36万円以上の案も検討されたが、対象者が7割程度で、徴収の手間が大きく、採用されなかった経緯もある。

 なお、国保加入の場合は年10回程度に分け、保険料を納めていた(口座振替と自主納付が半々)。これが新制度では、年金は2カ月ずつ給付されるため、6回に分け徴収される。75歳以上の納付率は05年で98・4%。

 ■新制度の保険料の考え方

 保険料=均等割り+所得割り(※均等割りは2割、5割、7割の軽減あり)(※均等割り額と所得割り率は都道府県で異なる)

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