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2008年06月08日(日) 15時13分

手放しで喜べない競泳の日本新更新オーマイニュース

 6月6日から始まった競泳の「ジャパンオープン2008」(東京辰巳国際水泳場)で、男子200メートルバタフライで北京五輪代表の松田丈志選手(宮崎県延岡市出身、ミズノ)が1分54秒42の日本新記録で優勝した。

 地元・宮崎日日新聞では、このことをいち早く伝えたが、果たして手放しで喜んでもよいものだろうか。

 初日の決勝種目だけでも、男子100メートル平泳ぎの北島康介選手(日本コカ・コーラ)は59秒44、男子200メートルバタフライの松田選手は1分54 秒42、男子200メートル自由形の奥村幸大選手(イトマン)は1分47秒36、女子200メートル自由形の上田春佳選手(東京SC)は1分57秒75、女子100メートル背泳ぎの中村礼子選手(東京SC)は59秒82をマークした。

 日本新記録を出したことで、いずれの選手も英・スピード社の水着「レーザーレーサー」の性能を高く評価し、北京オリンピックでの着用に前向きな姿勢を示しているということである。

 アスリートであれば誰でも思うことがある。「誰よりもはやく、1秒でもはやく」と。

 そういう選手たちの力を十分に発揮するためには、選手が身につけるウェアも重要になる。競技は違うが、5月31日、アメリカでは、陸上競技の男子100 メートルでウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)が、9秒72の世界新記録を樹立した。選手たちの走りを支えているのは、シューズである。

 宮崎県出身の河野光裕氏は、スポーツ用品メーカーで陸上競技全種目のシューズを担当している。日本代表クラスの選手のシューズは、すべて河野氏が見ている。河野氏自身も中学から陸上競技を始め、カール・ルイス選手の走りに心を揺さぶられ、この世界に入った。河野氏の仕事は、当然、日本代表クラスの選手たちのシューズをつくることだが、それ以外にも選手からの相談にも乗っている。

 ただ単にはやく走るためのシューズを開発するのではなく、選手の正直な気持ちを聞き出し、選手本人の感覚に合ったシューズを目指さなければ良い結果は生まれない。そのために河野氏は、選手とのコミュニケーションを大切にする。

 日本水泳連盟は、6月10日に臨時常務理事会を開き、日本選手に北京オリンピックでの使用を認めていないスピード社製などの水着を解禁するかを決めることにしている。

 しかし、シューズにせよ水着にせよ、選手たちに良い記録を出してもらおうと、河野氏のような開発担当者が裏方として選手たちを支えている。これまで、選手のために水着を開発してきた担当者の思いは複雑だろう。

 2001 年の陸上競技の世界選手権大会で、河野氏が担当したシューズをはいた男子マラソンのゲザハン・アベラ選手(エチオピア)が優勝した。2003年世界選手権大会男子200メートルの決勝では、末續慎吾選手が銅メダルを獲得した。河野氏は、体が震えるほど感動したそうだ。裏方として当然の喜びであろう。

 記録が出せる水着を選ぶのか、これまでの水着で記録を目指すのか、答えを出すのは選手である。水着を変更するということは、これまでのスポンサーとの関係を解消することにもなりかねない。デリケートな問題を含んでいる。水着や記録だけをクローズアップして騒いでいる多くのマスコミは、少し自重したほうが良いのではないだろうか。

(記者:大谷 憲史)

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