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2008年06月07日(土) 11時28分

決定的瞬間!おとり捜査避け白昼の住宅街で主婦らにシャブ販売産経新聞

 覚醒(かくせい)剤といえば、かつては若者が闊歩する渋谷・センター街などの繁華街でこっそり売買されるのが主流だった。だが最近は、ターミナル駅の沿線にある閑静な住宅街に売買場所がシフトしているという。密売人はイラン人グループ。客は主婦や若者が中心で、取引もわずか数秒で終わる。精神と肉体を蝕(むしば)む“魔の白い粉”は、ありきたりの住宅街からどんどん蔓延している。関東信越厚生局麻薬取締部が撮影した密売イラン人と客が取引する瞬間の衝撃映像を入手した。(森浩)

■待ち合わせは「お寺」…1日10人取引

 東京都世田谷区の閑静な住宅街にある寺の前に、ニット帽をかぶった20代とおぼしき女性が携帯電話をいじりながら、たたずんでいる。辺りを見渡すわけでもなく、落ち着いた様子。その振る舞いは日常の中に自然にとけ込んでいる。

 自転車に乗った外国人の男がスーッと近づくと、女性は木の陰についていった。サッと“白い何か”が外国人の男の手から、女性に渡された。周囲には、散歩するお年寄りや下校中の小学生がいたが、無関心に通り過ぎていく。2人はそのまま別れ、女性は駅の方向へと立ち去った。

 わずか5分後。寺の前には若い男性が現れた。外国人の男は背後から近づき、寺院の脇ですばやく何かをやりとりした。男はこの日、こうやって10人と接触、堂々と“取引”をやってのけた。

 今年1月9日、世田谷区内で関東信越厚生局麻薬取締部が撮影した映像だ。袋に入った「白い何か」は覚醒剤。覚醒剤のパケット(包み)を手渡していたのはイラン国籍のハファズ・シャヒディ・タバル被告(37)=覚せい剤取締法違反罪などで起訴。

 タバル被告は1月15日、世田谷区内の自宅アパートで、覚醒剤約70グラムやコカイン約15グラム、大麻約125グラムなど5種類の薬物を販売目的で持っていたとして麻薬取締部に逮捕された。逮捕の6日前の証拠映像だった。

■おとり捜査を警戒 繁華街から住宅街へ

 取引場所が住宅街へ移ったきっかけは、警視庁が平成14年に渋谷のセンター街などで実施した買い受け捜査(おとり捜査)だった。客にふんした捜査員が、販売を持ちかけたバイヤーから覚醒剤を実際に購入し、鑑定後、逮捕する捜査手法だ。「それまでの渋谷は通りごとにイラン人のシマ(縄張り)が決まっていて、歩行者に購入を持ちかけるような目に余る状況だった」(警視庁捜査員)

 買い受け捜査に加え、繁華街に防犯カメラが続々と設置されるようになると、通りからイラン人の姿は消えた。そして再び現れた先が、新宿や渋谷などターミナル駅から路線が伸びる杉並区、世田谷区、目黒区の住宅街だった。

 最近の売り方の主流は、電話で注文を受けると、販売場所として郊外の駅から少し離れた地点を指定する。神社など人通りが少ない場所が多いという。

 慎重な密売人は、合流したのち、ある程度の距離を保ちながら住宅街を2人で“散歩”して、捜査員かを判断する。「尾行してくるような人影でもあれば、そのままトンズラする。明らかに買い受け捜査を意識している」(警視庁捜査員)。“純粋な客”と判断すれば、取引に入るという。

 あとは早い。対面する前に、電話で値段の交渉はすんでおり、取引に要する時間はわずか数秒。パケット(包み)と現金を交換するだけだ。

■1台1000万円の「客付き携帯」 稼いだら売却して帰国

 彼らはどうやって客を集めるのか。
 イラン人の間で、「客付き携帯」と呼ばれる携帯電話が高値で売買されている。高いものでは実に1000万円。覚醒剤を渇望する客からひっきりなしに注文の電話が掛かってくる携帯電話だ。多くはレンタル携帯やプリペイド携帯など、“足が着きにくい”電話だ。

 「イラン人は『だいたいこれぐらい稼いだら帰国する』と考えているので、目標額まで稼いだら携帯電話を仲間に売ってすぐに帰ってしまう」。警視庁幹部はこう解説する。

 電話番号は客から客へ口コミで伝わる。また、センター街などでイラン人が直接メモを配っていることもある。メモには電話番号しか書かれておらず、口頭で「●●駅で電話してくれ」と指示するという。インターネット上には「センター街にいる外国人に声をかけるとメモがもらえる」という情報もあふれている。

 携帯電話には、覚醒剤の常習者たちから放っておいても注文の電話が掛かってくる。番号が知られていればいるほど、利益が多くなり、携帯電話の値段もつり上がる。「客付き携帯」といわれる由縁だ。

 こうしたイラン人にコンタクトを取り、白い粉を買おうとする人は絶えない。麻薬取締部は4月、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)などの現行犯で、東京都杉並区阿佐谷北、イラン国籍の無職、ファリド・ヤズダニ被告(39)=同罪で起訴=を逮捕した。

 同部によると、ヤズダニ被告は3月ごろから自宅周辺の住宅街で覚醒剤などを密売していた。購入者は会社員風の男性のほか、明らかに主婦とみられる女性もいた。2週間で約400万円の売り上げがあったという。

■「イラン人マフィア」 住宅街に縄張り

 住宅街で“荒稼ぎ”をするイラン人たちは、独自の秩序の中で動いている。
 かつて渋谷で通り単位でイラン人のシマがあったのと同様、現在も縄張りがある。「それがそのまま駅ごと地域ごとになった。原則1人が担当し、後任に収まりたいイラン人が順番待ちをしている状況。たまに抜け駆けをして勝手に商売を始めるようなはぐれ者もいるようだが、すぐ追い払われる」と麻薬取締部関係者は話す。イラン人なりの“秩序”がある。

 密売人の上部には利益を吸い上げる暴力団があると思われがちだが、ここ数年は事情が変わってきている。イラン人グループが自分たちで独自の仕入れルートを持つようになり、自分たちが稼ぐために覚醒剤を売るケースが増えたという。

 「もはやイラン人マフィアと呼んでも差し支えない」と断言するのはある捜査員。売人たちは“鉄の結束”を誇り、売人たちは逮捕しても組織のことをまったく話さない。組織の首領(ドン)がイランにいるのか国内にいるのかすら判然としない状態だという。

 理由はイラン国内に残した家族だ。捜査員は解説する。「組織のことを話したことが分かったら、イランの家族に危害が加わる。そうやって結束を維持する」。いつの間にか、まさにマフィアのような組織が日本の社会に中にできあがっているのだという。

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