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2008年06月06日(金) 16時53分

地震研究の最先端を見に行こう!オーマイニュース

 その日、地震の「波」は、中国・四川省から、なんと世界を6周するまで収まらなかった。波が地球上を一周するごとに、研究所のスタッフはそれを観測した。それほど、中国・四川省の地震は強烈なものであったという。また、世界各地で観測されたその地震データは、即座にネットを経由して世界の研究者でお互いに共有された、という。

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 こんな話を聞いた場所は、東京大学・地震研究所だ。実はこの5月31日を皮切りに、同研究所では「ラボ・ツアー(研究所ツアー)」と称して、毎月1回、一般からの応募者に研究所の中ではどんな研究がされているのか? ということを公開することになった。その最初のツアーに記者は参加させていただいた。

 ツアーはおよそ2時間ほどで同研究所の中を周る、という趣向だ。そのナビゲーターとなってくれたのは、同研究所の助教、アウトリーチ(広報)担当の大木聖子さんだ。

 大木さんは北大、東大を経て米国サンディエゴのスクリプス海洋研究所で研究生活を送った後、日本に帰ってこの仕事を始めた、という。彼女の説明は素人にも大変わかりやすく、ツアー中の話も大変に面白かった。彼女は今後はこの地震研究所の「顔」として活躍が期待されており、5月19日には朝日新聞「探求人」のコラムで写真入りで紹介されている。

 ツアーの始まりは午後2時。集まったのは、私を含めて中年の男性7人と、小学生の子供連れのお母さんだった。定員は今回は10人と少ない。

■ツアー中に地震が発生!

 ツアーの最初は同研究所の1号館6階にある地震予知情報センターだ。ここにある2台の大きなディスプレイには、リアルタイムで地震の情報が入ってくる。

 ちょうどツアーが始まってすぐ、ここに来たばかりの午後2時3分に、偶然にも茨城県沖でマグニチュード5.1の地震が発生。宮城県や茨城県などで震度2を記録した。その様子がリアルタイムで目の前のディスプレイに映しだされると、大木さんは「私たちでも、地震が実際にあったそのときに、このディスプレイの前にいることなんて、そんなにないんですよ!」と、少々興奮していた。

 ディスプレイに映し出されている地震計は、確かにその範囲では振り切れていた。

■世界の地震・日本の地震

 それから、大木さんに連れられて行ったのは、地震発生を書いた世界地図の前。そこで世界の地震と日本の地震の話を聞いた。

 日本は地震国と言われているが、実は日本では体に感じない地震を含めると、5分に一回地震がある、という。また、全世界観測される地震の約1割が日本で起きている、ともいう。そして、大木さんの説明してくれた地震発生の地図を見ると、日本は真っ赤な丸で埋まっている。これは、日本が「太平洋プレート」と、「フィリピン海プレート」という2つの「プレート」の合間にあるからだ、とのことなのだそうだ。

■ツアーは続く

 IT時代には時代遅れになった遠隔地震計などを見たあと、建物の1階にある「P波」と「S波」の説明模型を見せてくれた。

 これは大木さんの専門分野とのことで、説明も非常にわかりやすく、そこにいた小学生の男の子も、模型を触って理解をしたようだった。実際、「なぜP波がS 波よりも早く伝播するのか?」ということがこの模型を使って見ると、よくわかる。また、海底ケーブルにくっつけて使う、リアルタイムで海底の地震を観測する地震計なども見せていただいた。大変に大きなものだが、今は新しい2リットルのペットボトル様のものを開発中だという。

 さらに、この研究所で作っている「海底地震計」を作っている部屋に案内され、私たちはたくさんの黄色い「海坊主」みたいな地震計を見せていただいた。

 この地震計は内部にハードディスクを内蔵したLinuxをOSとしたコンピュータを持ち、電池駆動で1年までのオフラインの地震観測を行う、という。内部はハードディスクを使うために完全な真空にはできない、とか、球体の接合部分にはパッキンなどは劣化しやすいので一切使われていない、とか、技術的にもさまざまな工夫がされており、その話を聞くだけで大変に面白かった。

 ツアーの最後は、「免震構造」になっているこの建物自身の地下を見せていただいた。巨大なこの建物はなんと複数の「ゴム」の上に「浮いて」いるのだが、そのゴムを実際に見せていただいた。このゴムの中心には、鉛のような柔らかな金属素材の柱があるとのことで、数ヘルツの揺れはここで吸収し、建物にダメージを与えないようになっているが、さらに大きな揺れは、金属の中心が「折れる」ことによって、吸収をするのだという。

 そして最後に、同研究所のロビーに到着。大木さんはじめ研究所のメンバーが今回の見学者のさまざまな質問を受け、答えていただいた。その中には、もちろん中国・四川省の地震のことなどもあり、大変に興味深かった。同研究所の四川地震にかかわる研究の一部はこちら。このページでは、GoogleEarthで読み込んで地震の位置や大きさを表示するkml形式のファイルもある。

■研究所の今後

 ところで、この東大の地震研究所の初代所長は、土木工学の博士、末廣恭二氏なのだが、研究所創立10周年の折に、その創立のいきさつを書いた銘板が1号館のエレベーターの上に飾ってある(オリジナルはなくなっており、レプリカであるとのこと)。この文は寺田寅彦(当時研究所員)の手になるとのことだ。

 なお、このツアーは東京大学地震研究所のホームページで毎月告知があり、誰でも申し込めるとのこと。実は記者もひょんなことからこのホームページを発見し、ラボツアーに参加希望のメールを送った。

 7月30日には同研究所の一般公開が行われる。四川の大地震を見て、人事ではない、と考える日本人の一人としては、ぜひ足を運んでいただきたい、と思う。


(記者:三田 典玄)

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