太宰が眠る禅林寺(三鷹市)の近くに、太宰作品の名を冠したブックカフェがある。「フォスフォレッセンス」。店主の駄場みゆきさん(42)は、太宰にあこがれて京都からやって来た。5・5坪の小さな店を開いたのは、2002年2月だった。
「この写真を見た瞬間に、『この人こそ私が求めていた人だ』と思った」
駄場さんは店内の写真を指さした。1946年に、銀座のバー「ルパン」でのショット。ネクタイにベストというフォーマルな姿の太宰が、いすの上でやんちゃにあぐらをかいている。
「フェロモンが出ていて母性本能がくすぐられたというか、心中する女性の気持ちが分かったというか」。ともかく、駄場さんはこの写真にキュンときて、熱烈な太宰ファンになった。
卒論は、もちろん太宰。妻子ある男性にほれ、産んだ子を育てていく貴婦人を描いた作品「斜陽」を研究した。「古い道徳とどこまでも争い、太陽のように生きる」という力強いフレーズに圧倒されたという。
ただ、斜陽は太宰自身とその愛人がモデルとも言われる。愛人を囲うような男を、女性は許せるの? 「芸術家は元々だらしないもの。女性は才能に引かれるってことがあるんですよ」。駄場さんは全く意に介さない。
ダメ男をわたり歩く女性を描いた漫画「だめんず・うぉ〜か〜」の作者倉田真由美さん(36)によると、いわゆる“追っかけ”は、女性特有の傾向らしい。「特に女性は、相手が結婚しても構わない。杉良太郎さんにいまだに根強い女性ファンがいるのと同じですよ」と話す。
7年ほど前。駄場さんは太宰を取り上げたウェブサイトを見つけた。「管理人」の男性の写真は、若干うつむき気味。何かしら影のある雰囲気だった。
その年の桜桃忌。駄場さんは禅林寺で、管理人と出会った。程なく結婚した。
夫の洋志さん(36)は、太宰タイプなのだろうか。
「いえ、普通の人です。太宰みたいな浮気な人だったら困ります」