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2008年06月04日(水) 13時29分

スティールも驚いた再任否決劇 「第二、第三のアデランス」続出か?ダイヤモンド・オンライン

 「いったい何が起きているのかわからなかった」。さる5月29日、アデランスホールディングスの定時株主総会に出席したある株主は、苦笑する。

 この日、関係者を仰天させる「大事件」が起きた。総会では、業績報告と質疑応答が終わった後、剰余金の処分、取締役9名の選任、監査役3名の選任という3議案の決議に移った。しかし第2号議案の「取締役の選任決議」において、予想だにしない事態が発生した。なんと、社外取締役を除く、岡本孝善社長以下7名の再任が否決されたのである。

 そんな緊急事態にもかかわらず、「アデランス側は出席者に対して、その場で詳しい説明をしようとしなかった」(同株主)。「第1号議案は可決されました。第2号議案は否決されました。第3号議案は可決されました・・・」。矢継ぎ早に結果だけが伝えられ、その場は終わった。

「否決された第2号議案って、何だっけ?」「結局、第2号議案は可決されたの?」総会終了後に、内容を確認し合う出席者の姿も見えたという。

 この株主は、その後のアデランスの発表を聞いて、初めて事態の深刻さを認識した。しかしそれは、賛成票と反対票の割合さえ公表されない「申し訳程度」の発表に過ぎなかった。「企業にとってマズイ事実は、総会の出席者にさえロクに説明しないのか」と開いた口が塞がらないという。

 このようなアデランスの「株主軽視ぶり」には以前から不満が募っていた。主力の毛髪関連事業において市場競争が激化したため、2008年2月期の決算では、経常利益が対前年比50%減、最終利益が同90.3%減と、2年連続の大幅減益となった。失望した投資家の売りにより株価も急降下。今回の騒動は、投資家たちの「憤り」が爆発した結果だ。

 しかしその一方で、今回の事態に最も驚いているのが、アデランス株の約26.7%を保有する米国系投資ファンド、スティール・パートナーズ(日本法人)である。割安な実力派企業の株をTOBで大量に取得し、経営陣に企業価値の向上を提案して、高値での売却を狙うアクティビストだ。筆頭株主の彼らは、昨年、買収防衛策の撤廃を求めて委任状争奪戦を展開。今年に入り、経営陣の退陣や取締役の受け入れまで提案している。そのため、「総会ではひと波乱起きるに違いない」と誰もが思っていた。

 ところが実際には、「スティールの関係者は総会に出席せず、事前に委任状集めもしていない」という。実は、「ファンドの収支や、濫用的買収者というイメージに対する出資者の目が厳しくなり、協調路線へ移行している最中」(投資ファンド分析の専門家)なのである。

 つまりこの騒動、スティールが働きかけなかったにもかかわらず、彼らに同調する株主が続出して起きた稀有な事態なのだ。「スティールに加えて、他の米国系ファンドや国内の保険会社が軒並み再任反対に回ったようだ」(専門家)。これまで強硬路線で失敗してきたスティールは、協調路線に転じた途端に、意図せず日本で「初勝利」を収めたことになる。

「アデランス騒動の影響で、今後は似たようなケースが増える可能性が高い」と専門家は指摘する。創業家などの特殊な大株主ではなく、純粋株主がこぞって経営陣に「ノー」を突きつけて起きた大規模な選任否決劇は、今回が初めてだ。今後、「企業価値向上」を唱える投資家が増えれば、株主総会で「ダメ出し」の嵐が吹き荒れるかもしれない。「第二、第三のアデランス」が続出しないとも限らないのだ。

(ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

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