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2008年06月03日(火) 00時00分

グローバル企業に「日本発」生かす読売新聞

オンラインサービス強化に新組織

「働きがいのある会社ナンバーワンに選ばれたこともありますが、個人個人の働きがいはあると思うんですけれど、もう少し会社全体の連帯感を高めていかないといけないな、というのが課題です」(撮影・谷口とものり)
——ソフトウエアはウエブにシフトする流れがあり、グーグルという強敵がいます。今後の展開をどう見ますか?

樋口 ネットワーク経由でソフトウエアを提供して月額課金的に対価をいただく、というビジネスモデルは、どれだけ早く、どれだけ広がるかはわかりませんが、そういう方向性だと思います。ネットワークは今後、帯域幅が広くなるし、安くなるし、信頼性も高くなりますから。

 でも全部そうなるかというと、決してそんなことはないでしょう。人事や会計など専用ソフトやデータを外部に出しにくいものがあり、ネットワークにつながっていない作業も発生します。そのときは、ソフトがパソコンの中に入っている必要があります。

 マイクロソフトは「ソフトウエア+サービス」として、ソフトウエアと回線を通じたサービスが継ぎ目なくつながっていく形を想定してソフトウエアを開発しようとしています。

 何か新しいキーワードが流行ったときに、そのモデルに一気に全部シフトする風潮がありますが、よく考えたらそうでもないな、ということがあります。「ソフトウエア+サービス」の世界も、ウエブと共存して発展していくんじゃないかと思います。

——ウエブ強化のための新たな動きは?

樋口 パソコンはもちろん、ポータル(玄関)サイトの「MSN」や、携帯端末用OSである「ウィンドウズモバイル」なども含めたインターネットという世界の中で、一般消費者向けの存在感を高めていこうとしています。そのための新しい組織「コンシューマー・オンライン・インターナショナル(COI)」が7月に立ち上がります。

 米国本社で全体をとりまとめるのが、前社長のダレン・ヒューストンです。日本の場合は、いろいろなディバイス(コンピューターの周辺装置)のメーカーがあるので、ほかの国とは違った部隊を持ち、きっちりカバーしていきます。

——7月にビル・ゲイツ会長がパートタイムに退きます。マイクロソフトの「顔」が見えにくくなるのでは。

樋口 松下電器産業でもホンダでも、創業からあれだけ大企業になる過程においては、リーダーが進化していると思うんです。単にベンチャー的なところから始まって、大企業までにする間にリーダー自身のスタイルが変化し、変化できないと会社は経営者の器以上には大きくなっていかない。

 会長のゲイツがソフトウエアに重きを置き、スティーブ・バルマーが経営を分担したことで、マイクロソフトは大きくなってきたのです。ゲイツ会長も急にいなくなってしまうインパクトの大きさを十二分にわかっており、かなり前から、ソフトウエアに対する自分の考えを伝授していますし、今後もパートタイムながら、大所高所からソフトウエアのあり方とか、ソフトウエアの考え方の大きな軌道についてはきっちり見ていくはずです。かなり理想に近い形ではないでしょうか。とはいえ、マイクロソフトの「アイコン」であるビル・ゲイツがパートタイムということになると、それなりのインパクトはあると思います。

——日本では、ご自身が「顔」になる?

樋口 私はビジネスの顔なので、日本のIT技術者があこがれるような、もっとエンジニア魂を伝える顔が日本に欲しいと思います。

——ご自身も根は技術者ですが。

樋口 もともと私は、大学のときには手作りでパソコン作ったりして、ほっておくと自然にオタクになってしまうんです。そういう自分が嫌で、木を見て森を見ずにならないようにと自制してきました。だから、一人一人のエンジニアの気持ちまでわかる、と自負しています。

 マイクロソフトはもっともっと強い会社にならないといけない。自然と売れていた時代もありましたが、今は、きっちりお客様の気持ちをつかんで、我々の商品をきちんと説明して、商売させていただく基本路線を強化していかなくてはいけない局面にあります。その改革を社員が納得する方向で推進したいと思っています。

——3社目の社長業です。やりがいを感じるのはどんなときですか?

樋口 皆で一緒に力を合わせてうまくいったとき。売り上げを達成して、「うまく行った」とみんなで喜びあいたいですねえ。

(YOMIURI PC編集長 稲沢裕子)

(敬称略)

http://www.yomiuri.co.jp/net/interview/20080603nt11-1.htm