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2008年06月03日(火) 00時00分

(下)40歳以上が対象、雑誌とサイトの注目株読売新聞

東京工芸大学専任講師・茂木崇

 前回は幅広い世代を対象とした、代表的な女性サイトを2つ取り上げた。今回は40歳以上に的を絞り、精神的にも経済的にも自由を獲得した「大人の女性」を対象とした、注目の女性雑誌とサイトをご紹介しよう。

モア(More) 10年で4倍増の120万部、コンセプトは「女性を祝福」

 若さに価値を見出すことが多いアメリカで、「40歳以上の女性が対象」と公言するメディアは少数派に属する。そうした中で、「モア」は40歳以上の女性をターゲットとした雑誌として、1998年に創刊された(ちなみに集英社の「MORE」とは無関係である)。

 創刊当初の部数は32万部であったが、その後毎年部数を伸ばし、創刊10年目となる今年2月には120万部に達した。広告ページも昨年1年間で20パーセント増え、2006年には広告業界誌「アドバタイジング・エイジ」が、「マガジン・オブ・ジ・イヤー」に選出した。

 モアはアメリカにおいて、キャリアウーマンの存在感が高まっていく流れをうまくつかんで成長をとげてきた。雑誌のコンセプトは「40歳以上の女性を祝福する」というものだ。具体的にどう祝福しているのかを、筆者の手元にある2007年12月/2008年1月号を例にとって見てみよう。

メッセージは「パワフルに笑顔で生きる」

 まず表紙は、テレビドラマ「デスパレートな妻たち」に2007年から出演中の、デイナ・デレイニーの写真で飾っている。その写真説明は、彼女が51歳だと明記した上で、「今になって私は、何が自分を幸せにしてくれるかが分かる」と続けている。

 誌面は「スタイル」「仕事とお金」「人々と場所」「体と心」などから構成される。また雑誌の後半には、パキスタンの故べナジル・ブット元首相に関する記事や、健康保険問題など、硬派で長めの読み物も掲載している。

 様々な記事の中でも、「ランジェリー・レポート」はモアらしい記事である。40歳以上の一般の女性9人が、さわやかな笑顔を浮かべてランジェリー姿で登場している。9人それぞれのライフスタイルに合わせた、ベストなランジェリーについての解説もついている。

 また、「レス・イズ・モア(少ないことはより豊かなこと)」という記事では、「長い髪はセクシーだが、短い髪はもっとセクシーだ」と、6人の長い髪の女性をモデルにして、髪を切る前と後の写真を並べている。

 さらに「ゴーイング・グローバル」は、海外で働くとどんな風に視野が広がるかという趣旨の、5ページに及ぶ記事だ。40−50歳代は、文化の違いを乗り越えられるだけの自信がついているし、私生活上もいろいろメリットがあると肯定的にまとめている。

 モアはいくつになってもパワフルに、そして笑顔で生きていこうというメッセージを発している。明るい誌面も特徴的だ。なお、モアはウェブサイト(http://www.more.com/)も開設しているが、読者からのコメントがあまりないのは気になるところである。

ワウ・オー・ワウ(wowOwow)

http://www.wowowow.com/


左からレズリー・ストール、ペギー・ヌーナン、リズ・スミス、ジョニー・エヴァンズ、メアリー・ウェルズの創設メンバー
NYメディア界の著名女性5人が設立

 続いて、今年3月8日にスタートしたばかりの「ワウ・オー・ワウ」を紹介したい。「WOW」とは「The Women on the Web(ウェブ上の女性)」を意味し、キャリアで成功した40代以上の女性が本音でおしゃべりできる場をと、ニューヨークのメディア業界で成功を収めた5人の女性が始めたサイトである。

 その5人とは、出版社のサイモン&シュスターとランダムハウスでトップを務めたジョニー・エヴァンズ(彼女がサイトのCEO=最高経営責任者を務める)。経済紙ウォールストリート・ジャーナルのコラムニストのペギー・ヌーナン。ゴシップ・コラムニストのリズ・スミス。CBSのニュースマガジン番組「60ミニッツ」の記者であるレズリー・ストール。そして、「I Love NY」キャンペーンの生みの親で、女性CEOとして初めてニューヨーク証券取引所に企業(広告会社)を上場させたメアリー・ウェルズの5氏である。

大人の女性も満足、「サイトはパーティー会場」

 設立の発端は1年ほど前にさかのぼる。ショッピングや旅行のサイトに飽きたエヴァンズ氏が、大人の女性を満足させるサイトはないものかと思い、友人に相談した。話は大いに盛り上がり、ニューヨークのメディアを登りつめた親友5人で、自分たちのような女性のための、インタラクティブ(双方向的)なサイトを作ってみようということになった。この5人は、押しも押されもせぬニューヨークのメディアの大御所だが、常に新しいことに取り組みたい、ネットの世界でも自分たちに何ができるか試してみたいと、意欲を燃やしていった。

 その後、彼女たちは様々なアイデアを検討した。一時は既存メディアの傘下に入ることも考えたが、結局は1人20万ドルずつ出資し、独立した形で立ち上げることに話はまとまった。

 発足に当たって、エヴァンズ氏はこう述べている。「ワウ・オー・ワウはパーティーです——ウェブサイトに見せかけてはいますが。ここで私たちは、バスローブを着たままコーヒーを飲んだり、メークアップなしでカクテルを楽しんだりします。真夜中でも誰かは起きています!」

 パーティーとはいうものの、このサイトはC Corporation(株式会社)としての事業で、将来的にはIPO(株式公開)の可能性も彼女たちは考えている。そして、彼女たちのほかに女優のウーピー・ゴールドバーグなど10人の女性が寄稿者としてこのサイトに参加し、合計15人のメンバーをそろえたサイトにしている。

話題の人物をパーソナルに語れる強み

 サイトはメンバーによるコラム、メンバーどうしのおしゃべり、読者に意見を問うコーナー、星占い、天気などからなる。今後、ビデオやSNSなど、様々な要素を加えていく予定で、世界を変えていくための双方向型コミュニティも構想中である。

 ワウ・オー・ワウは女性が関心を持つありとあらゆる話題を取り上げており、大統領選挙からバイアグラまで、何でも議論のテーマにする。創設者の1人のストール氏が言うように、このサイトは「長いこと女性どうしでおしゃべりをしていないと、気分が滅入ってくる。座っておしゃべりしていると、気分がよくなってくる」という気持ちに応えるものである。

 そしてエヴァンズ氏は「ニューヨークのメディアが話題にする人物で、創設者5人のうち1人も知り合いでない人はいない。話題の人物をパーソナルに語れるのが、私たちの強みだ」と語っている。

 創設者のエヴァンズ氏とウェルズ氏は、アメリカの女性は企業社会で男性と対等にやっていけるところまで来たと考えている。グラス・シーリング(ガラスの天井)と呼ばれる目に見えにくい差別はなくなり、今後ますます女性が企業のトップになることが増えていくだろうと話す。

 精神的にも経済的にも自由を獲得した大人の女性のためのコミュニティサイトとして、ワウ・オー・ワウは発展していくことであろう。

茂木崇 東京工芸大学専任講師

 マスコミュニケーション論、アーツマネジメント論などが専門。ニューヨークをこよなく愛し、ブロードウェーの最新事情にも詳しい。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20080530nt09.htm