記事登録
2008年06月02日(月) 02時13分

南アで移民排斥が激化 62人死亡、4万人避難朝日新聞

 【ヨハネスブルク=古谷祐伸】南アフリカの国内各地で、周辺諸国からの移民を排斥する動きが激化している。武器を使った暴力行為が5月から続き、1日までに62人が死亡、約4万2千人が避難生活に追い込まれている。背景には、好調な経済に取り残された黒人貧困層の深刻な失業問題がある。

警察署の裏庭に避難したジンバブエからの移民ら=31日、南アフリカ・ヨハネスブルク、飯塚晋一撮影

  

 襲撃は5月11日夜、ヨハネスブルク中心部に近い旧タウンシップ(非白人居住区)のひとつ、アレクサンドラ地区で始まった。地元民が、なたや石、銃で移民に襲いかかった。ジンバブエやモザンビークからの不法移民と南アの貧困黒人層が入り交じり、「シャック」と呼ばれる粗末な小屋などに住む地区だ。

 5月31日、同地区は一見平穏だ。だが、目に付くのは南ア人ばかり。移民はことごとく家を追われたという。

 道端で集団で座り込み、ビールを飲んでいた無職の男性(30)が「見ろ」と言って、へその辺りに挟んだ拳銃をちらっと見せた。「外国人(移民)は絶対に戻らせない。やつらは泥棒だ」。別の男性(26)は「不法移民のせいで、おれは空き瓶集めしか仕事がない」と不満を吐いた。

 追われた移民の一部は、近くのブラムリ警察署に避難している。約170人のジンバブエ人らが三つの仮設テントで暮らす。同国から95年に出稼ぎで来た不法移民ムサカさん(33)は「攻撃してきた男たちは、言葉遣いやなまりで移民を探していた。まるで人種差別。故郷は経済がひどいから帰れないよ」と話す。

 アパルトヘイト(人種隔離)政策とは91年に決別した南ア。今回、黒人政権が誕生した94年以来初めて、騒乱鎮圧に軍隊が投入された。

■失業に不満

 襲撃は、同地区で直前に開かれた住民集会がきっかけだった。失業への不満が噴出し、移民を追い出す了解がまとまったという。移民は地元民の半分程度の給料で働くため、ただでさえ少ない仕事が「移民に奪われる」という脅威を感じているのだ。

 南アの失業率は23%。だが、近年の経済成長で貧富の差が広がり、貧困層の失業率はさらに高い。犯罪の増加を移民のせいにする主張も目立つ。最近の食糧高騰が、貧困層の不満に拍車をかけた。

■5万人出国

 排斥の動きはダーバンやケープタウンへも広がった。避難者数を南ア政府は3万人としているが、国連側は10万人と発表。国連は、うち半分以上は移民の本国の支援などで既に出国したとみる。南ア政府は2千人規模の臨時キャンプを7カ所に設け、警察署や教会に避難した移民を移す方針だ。

 それでも南アの移民社会は、ジンバブエ人を中心に500万人とも言われるほど大きく、移民対策は緊急の課題だ。2年後に迫った南アでのサッカー・ワールドカップへの懸念も高まっている。

アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/international/update/0602/TKY200806010172.html