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2008年06月02日(月) 10時13分

青少年ネット規制法、今国会で成立しちゃうの?オーマイニュース

 インターネットの「有害情報」から子どもを守るために、アクセスを制限しようとする青少年ネット規制法案について、自民党と民主党は、今国会で成立させることで基本合意した。来週中の衆院通過を目指すという。

 成立すれば、いわゆる「有害情報」へのアクセスが制限される。しかし、両党の案では、制限すべき「有害情報」の定義や、国家の関与の是非についても隔たりがあり、成立にはなお時間がかかることが予想される。

自民党案・民主党案のそれぞれの概要を見る

■有害情報の定義、国家の関与の是非に隔たり

 5月29日付YOMIURI ONLNEによると、18歳未満の子どもが携帯電話で有害サイトに接続できなくする「フィルタリング(選別)サービス」の導入を携帯電話会社に義務づけることが柱だという。

 ただし、制限すべき「有害情報」の定義については、両党で隔たりがある。自民案のフィルタリングの対象になる「青少年有害情報」は、

 1) 人の性交等の行為又は人の性器等の卑わいな描写その他の性欲を興奮させ又は刺激する内容の情報であって、青少年に対し性に関する価値観の形成に著しく悪影響を及ぼすもの、
 2) 殺人、傷害、暴行、処刑等の場面の陰惨な描写その他の残虐な行為に関する内容の情報であって、青少年に著しく残虐性を助長するもの、
 3) 犯罪若しくは刑罰法令に触れる行為、自殺又は売春の実行の唆し、犯罪の実行の請負、犯罪等の手段の具体的な描写その他の犯罪等に関する内容の情報であって、青少年に対して著しく犯罪等を誘発するもの
 4) 麻薬等の薬物の濫用、自傷行為その他の自らの心身の健康を害する行為に関する内容の情報であって、青少年に対し著しくこれらの行為を誘発するもの
 5) 特定の青少年に対するいじめに当たる情報であって、当該青少年に著しい心理的外傷を与えるおそれがあるもの
 6) 家出をし、又はしようとする青少年に向けられた情報であって、青少年の非行又は児童買春等の犯罪による青少年の被害を著しく誘発するもの

というもの。そして、内閣府に設置される「青少年健全育成推進委員会」などがガイドラインを作成。国家の関与を認めている。

 一方、民主案でのフィリタリング対象になる「有害情報」は、こうだ。

 1) 性又は暴力に関する情報であって人の尊厳を著しく害するもの、著しく差別感情を助長する情報その他人の尊厳を著しく害する情報
 2) 子どもに対し、著しく性的感情を刺激する情報
 3) 子どもに対し、著しく残虐性を助長する情報
 4) 子どもに対し、著しく自殺又は犯罪を誘発する情報
 5) 特定の子どもに対するいじめに当たる情報であって当該子どもに著しく心理的外傷を与えるおそれがあるもの

 表現や項目、罰則の有無で両者には開きがある。具体的には、政府の関与度合いが違う。自民党案は、政府の関与を積極的に認め、一方、民主党案は自主規制に任せるべきとしている。この隔たりは大きく、一致するのは難しいのではないか、と思われる。

■規制派、慎重派がそれぞれ意見表明 青少年特別委

 4月25日の衆院青少年特別委員会(玄葉光一郎委員長)では、参考人招致があった。下田博次・群馬大学社会情報学部大学院研究科教授は、

 「インターネットというメディアは基本的に成人向けメディア。未成年者の利用に当たっては、特に思春期の子どもたちのインターネット利用に当たっては慎重に対応しなければいけない、フィルタリング等、有害情報を遮断するような仕組み、それをフルに活用しながら、なおかつ、保護者、教師ともに慎重にインターネットの利活用をさせなければいけない」

と、一定の規制の必要性を述べた。

 また、インターネット協会副理事長の国分明男氏は、

 「政府によるインターネットの規制が是か非か。落としどころは、結局、子どもたち、その保護者、先生たちのリテラシー向上ということになる。これをどんどん発展させることによって、そういうものの問題解決の一つの切り口になるのではないか」

と、政府の関与の是非は留保し、ネットリテラシーの向上を目指すべき、とした。

 さらに、ソフトバンクの孫正義社長は、1996年にアメリカでインターネットの規制をしようとする通信品位法が成立したが、行き過ぎた内容だったために、憲法違反になったことをあげつつ、

 「200万あるようなコミュニティーサイトをまとめてすべて18歳未満閲覧禁止みたいな形だと、これはちょっと行き過ぎではないかというような議論がある。十分な議論をしてこの決定をしていかないと後で大きな問題になり得る」

と、早急に結論を出す姿勢に釘を刺していた。

 5月28日の同委員会での参考人になった、前田雅英・首都大学東京都市教養学部教授は、

 「いま少年たちは辛い状況に置かれている。こういう状況であれば、いろいろ問題を起こすのは当然。さらに、出会い系サイトで知り合った知らない男に殺されてしまうかもしれない、ということになってきている。IT社会の持つ問題、特に少年の側にどのように影響を与えるか。東京都では条例で、携帯電話を販売するときにはフィルタリングを原則とするといった規定を作った。努力規定であり、ほとんど無視はされたが、議論のタネが広がり、徐々に変わって行った」

などと話し、フィルタリングを原則とすることを義務化することは気が熟した、とした。ただし、「有害情報の定義」を政府が示すのは懸念を示し、官民協力の代表例としての「インターネット・ホットラインセンター」のような団体を想定し、自主規制を進めていくべき、とした。

■合意の背景には何が?

 それにしてもなぜ、隔たりがあるにもかかわらず、両党にあって合意の方向に行ったのだろうか。メディア規制の動向に注目しているマスコミ関係者は、こう語る。

 「もともとネットなどの表現を規制の流れを作ってきたある元警察官僚が激しくロビー活動をしていたことが背景にあるようです」

 ここでいう元警察官僚は、竹花豊氏と思われる。国会での論戦中に、広島市では「青少年と電子メディアとの健全な関係づくりに関する条例」が制定された。18歳未満の子どもが携帯電話やインターネットカフェのパソコンを利用する際には、フィルタリングを義務づけたものだ。広島県は、竹花氏が県警本部長を経験した場所でもあり、影響が強い、とされる。

 また、東京都副知事時代にもこの問題に取り組み、東京都の青少年健全育成条例で、携帯電話を販売する際には、フィルタリング機能を初期設定にする努力義務規定を盛り込んでだ。警察庁生活安全局長の時には、「バーチャル社会の弊害から子どもを守る研究会」を設置。インターネットやアニメ、コミック、ゲームの規制についても踏み込んだ報告書を公表。規制推進派として知られている。

 なお、新聞協会メディア開発委員会は5月29日、衆院青少年特別委員会に対して、法制化に懸念を示す意見書を提出している。

(記者:渋井 哲也)

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