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2008年06月01日(日) 00時00分

心のケア、阪神大震災の経験を中国・四川で朝日新聞

 阪神大震災で被災者の心のケアに取り組んだ臨床心理士らが中国・四川大地震の被災地を訪れ、現地のボランティアに経験を伝えた。今回の震災では中国国内でも早い段階から心のケアが注目され、心理学を学ぶ学生が大勢、被災地に入っている。チームは若いボランティアたちの熱意に希望を見つけ、1日帰国した。

被災者をリラックスさせる方法を現地のボランティアに指導する冨永良喜さん(右)ら=5月30日、四川省徳陽市、浅倉写す

 兵庫教育大大学院教授の冨永良喜さんや、兵庫県でスクールカウンセリングに携わる高橋哲さんら4人の臨床心理士が、5月26日から1週間の日程で訪中した。

 5月30日に訪れた徳陽市の第七中学校では、校舎を失った近隣の高校3年生数百人が校庭に並んだテントで生活しながら、受験勉強をしていた。一行を迎えたのは「心理援助隊」と書かれたTシャツ姿の若者たち。200キロ以上離れた重慶市の西南大学心理学院で学ぶ学生や研究者らだ。同大では震災から間もなくボランティア組織が結成され、数班が被災した各地に駆けつけた。同中学校では約20人がテントを拠点に子どものケアの方法を教員に教えたり、様々な不安を抱えながら勉強を続ける受験生の相談に乗ったりしている。

 中国では近年、心理学に関心を持つ学生が急に増えたという。現地の専門家の一人は「物質的な豊かさを得るにつれ、心の問題への関心が高まっているのでは」とみる。

 震災で心のケアの重要性が指摘されたが、中国では大規模災害での取り組みの経験がほとんどない。このため、同学院が「阪神大震災などを経験した日本の助言がほしい」と日本心理臨床学会に専門家の派遣を要請した。

 日本のチームが同学院で27日から3日間開いたセミナーには400人以上が参加した。「人生経験に乏しい私たちに支援なんかできるのか」「一瞬にしてすべてを失い、勉強しても無意味と感じている子どもに、どうすれば希望を持たせられるのか」。若いボランティアたちは活動で感じている悩みを日本の先輩に次々とぶつけた。

 「ここに来るまで、中国で心理ケアが本当に理解されているのか、偏見があった」。ボランティアの熱心さに心を動かされた高橋さんは交流の最後にそううち明け、若者たちをねぎらった。「心理援助隊」は被災地での活動を数年間は継続させる計画という。

 「阪神大震災では私たちも試行錯誤の連続だった。そこで得た経験を伝えることが、あの震災の被害を生かすこと」。高橋さんらは今後も中国の若い仲間たちを支えていくつもりだ。(浅倉拓也)

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200806010007.html