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2008年06月01日(日) 00時00分

阪神大震災の教訓役立てて 記録集など中国語に翻訳朝日新聞

 中国・四川大地震からの復興や被災者ケアに役立ててもらおうと、阪神大震災を経験した兵庫県で、震災の記録集や資料を中国語に訳して現地に届ける「翻訳支援」の動きが広がっている。担い手の中国人留学生や大学教授らは「震災の教訓は人類共通の財産。国境を越えて生かしてほしい」と願う。

阪神大震災の復興記録の翻訳について、王柯教授(右端)と意見を交わす留学生たち=神戸市灘区の神戸大

 神戸大大学院(神戸市灘区)の王柯(ワン・クー)教授(52)の研究室の机には、約30冊の分厚い書物が積み重なっている。「阪神・淡路大震災—兵庫県の1カ月の記録」「神戸市復興計画」「復興の総括・検証」……。兵庫県や神戸市などがまとめた震災に関する記録や資料集だ。王教授の教え子ら中国人留学生約30人が、抜粋して翻訳を進めている。

 王教授は陝西省出身。震災翌年の96年、神戸大の助教授に就き、大学の非常勤講師をしていた東京から神戸市灘区に転居。再生していく神戸の街を見てきた。「震災の犠牲者も復興の教訓が中国で生かされることを望んでくれているのでは」と話す。

 同大学院博士課程1年の彭程(パン・チン)さん(29)は湖南省出身。「祖国の大惨事に駆けつけることはできないけれど、同じ悩みで苦しんだ被災地の蓄積を翻訳することで被災者の役に立てれば」という。翻訳原稿を6月末までに小冊子にまとめ、現地の行政機関などに送る予定だ。

 震災から約2年間、被災者のケアに携わった兵庫教育大大学院(兵庫県加東市)の冨永良喜教授(55)は5月26日、同県教委が06年にまとめた防災テキスト「EARTHハンドブック」の中国語訳を携えて中国に渡った。翻訳テキストを医療スタッフや教師、行政関係者らに配り、指導している。

 そこには「被災した子どもに接する際、相づちを忘れない」「話を妨げない」といった応対や、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の兆候をチェックするアンケートの手法などが記されている。

 冨永教授は「中国は大災害での心のケアの経験がほとんどなく、専門家も少ない。阪神大震災の経験と教訓が詰まった最高の教科書。ぜひ役立ててほしい」と話す。(榊原謙、浅野直樹)

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200805310125.html