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2008年06月01日(日) 13時42分

「飲めばDカップ」アコギ豊胸商法の入念な“アフターケア”産経新聞

 「3個くらい飲んだあたりでびっくり! なんとDカップになってたんです」−。何の変哲もない黄土色のソフトカプセル錠。それを飲むだけで「胸が大きくなる」と無許可のまま医薬品的効果をうたって販売していたとして、健康食品販売会社の経営者ら4人が薬事法違反の容疑で神奈川県警に逮捕された。その利益は約8億3000万円と県警はみている。「きれいになりたい」と願う女性心理につけ込んだ“豊胸商法”には二重三重のカラクリがあり…。(大渡美咲)

【秘蔵ショット】 バストがBからDに! 数年前は消費者金融のCMに出てました

 ■「アンダー」変わらず「トップ」大きく…
 逮捕されたのは東京都新宿区新宿の健康食品会社「ファイナルジャパン」の実質経営者、郭充良容疑者(52)と社長の明石まゆみ容疑者(41)ら4人。問題の商品は「アップゴールドインパクト+2006」という名の錠剤だ。1箱180粒入りで、1万円前後で販売していた。
 神奈川県警が捜査を始めたきっかけは、郭容疑者らがランダムに送っていたダイレクトメールがたまたま、川崎署員の家に送られたからだった。
 《バストも劇的変化》
 《女性ホルモンの働きを整えながら、あなたのバストアップをより協力にサポートします》
 《お肌のためにもオールマイティな効果が期待できる》
 インターネットやダイレクトメールを使った広告には、こんな派手な宣伝文句が並んでいる。さらにチラシには−。
 バストの大きさが「AA65」(アルファベットはトップバストとアンダーバストの差、数字はアンダーバスト。Aサイズは10センチ内外)から「F65」(Fサイズは22・5センチ内外)に変化したという女性が水着姿の写真付きで体験談を載せている。女性の胸は目を見張るほど大きくなっている。
 驚くべきことに、錠剤によって、トップバストが飛躍的に大きくなっているのにもかかわらず、アンダーバストがまったく変わっていないのだ。女性にとっては「理想的」な豊胸の姿である。

 ■「Dカップになるまで一緒に頑張りましょう」…入念なアフターケア
 ところが関係者によると、こうしたパンフレットでは、デジタル加工のほかにも、もともとバストが大きい人のバストを押さえて小さくみせておき、比較に使うなどさまざまな巧妙なテクニックが使われるという。県警では「ファイナルジャパン」のこうしたチラシにも、何らかのカラクリが隠されている疑いがあるとみて、解明しているとみられる。
 実際に「アップゴールドインパクト+2006」を使用したという女性の1人は「胸を大きくしたかったが、効果がなかった」と話している。県警が事情を聴いた女性17人中14人が「効果が全くなかった」としている、という。
 しかし、インターネットの口コミサイトのレビュー欄には「胸が張ってきた」という書き込みなど、効果があるかのような記述もみられた。その背景には、ファイナルジャパンが、効果があるように見せかけるための入念な”アフターケア”をしていたからだ。
 県警の調べや関係者の話によると、ファイナルジャパンには「コーディネーター室」という部署があり、購入した女性に「目標のDカップまで一緒にがんばりましょう」と数回にわたり電話をかけていた。
 さらに一問一答形式のマニュアルも用意。そこには、女性の胸が張りやすくなる生理の周期などを聞き出し、その前後に電話をかけ、効果があるようにみせかけるなど、女性の体の仕組みまでも利用したセールスを展開していたのだ。

 ■生理の時期に電話かけ…「胸が張る」を利用
 また、「ダイエット薬品と併用は可能か」という質問には、「働きかけるところが違うので、ダイエットしながらバストアップも可能」と、別の商品も売りつけるようなトークや、「効果がない」という質問には「飲む量を増やしては?」とさらなる購入を勧めるような文言が書いてあった。
 関係者によると、このコーディネーター室の従業員は約10数人程度だというが、賃金は商品の売り上げによって決まっていたという。中には月150万円以上もの給料を手にしていた従業員もいたというほどだ。
 経営者らはこの部署に力を入れていたとみられ、リピーター客の獲得に躍起になっていた様子がうかがえる。
 一方で、昨年末に県警の家宅捜索を受けてからは、商品を定価よりも安く販売するなど、“在庫整理”も進めるしたたかさも発揮していた。
 さらに郭容疑者らは、ネットやダイレクトメールでの宣伝のほかに、ファッションに関心が強い20代前半の女性らに人気のある女性雑誌や、幅広い年代に読まれている有名通販雑誌にも広告を載せていた。
 女性たちが着こなしの参考にしているスタイル抜群の有名モデルたちと同じ誌面に掲載された「アップゴールドインパクト+2006」の広告を、女性たちが信じてしまうのも無理はない。

 ■原価は1090円…販売価格は10倍!
 「アップゴールドインパクト+2006」を、記者も一粒食べてみた。
 味はほとんどない。
 商品の箱の裏には「カモミール」や「オリーブオイル」など、一見して効果があるようなものが原材料として記入されているが、原価は1090円。ファイナルジャパンは約10倍の値段で販売していたことになる。
 薬事法は第24条第1項で、「医薬品の販売業の許可を受けた者でなければ、業として、医薬品を販売してはならない」と定めている。
 明石容疑者は容疑を認めているが、実質的な経営者だった郭容疑者は「効能効果をうたったことは知らない」と容疑を否認しているという。
 「胸の小さい女性のコンプレックスにつけ込んだ悪質な商法だ」
 県警幹部がそう断じるように、「高価でも効き目があるなら」という女性たちの必死の願いをもてあそんだというべき罪は重い。

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