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2008年06月01日(日) 03時04分

あたご前航海長、方位盤使わず「危険なし」と引き継ぎ読売新聞

 海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故で、あたご前航海長(35)が前水雷長(34)に当直士官を交代する際に「衝突の危険はない」と引き継いだことが、第3管区海上保安本部(3管)の調べでわかった。

 前航海長は、他船との位置関係を測定するジャイロレピータ(方位盤)を使わなかったことも供述。3管は、前航海長の警戒不徹底で適切な回避や引き継ぎができなかったとみている。

 捜査関係者によると、前航海長は2月19日午前3時50分ごろ、右前方数キロに清徳丸を含む漁船団を発見した。前航海長は「目視の結果、漁船団の速度は遅く、方位が明らかに落ちている(遠ざかっている)ように見えたので、あたごの後方を通過すると判断した」と供述している。その後は漁船団の動向をよく確かめないまま、同4時に前水雷長に引き継いだ。前航海長は当時、レーダーは使っていたが、ジャイロレピータを使っていなかったことを認めた。

 ジャイロレピータを使えば、自艦の進む方位と、目視で確認した他船の角度を正確に把握でき、角度の変化などで衝突の可能性を予測できる。海上幕僚監部広報室によると、他船を目視できる場合はジャイロレピータを使って動きを見張るのが一般的。レーダーは解析度が気象条件などで変わり、波の影響で小型船が映らないこともあり、同室は「レーダーのみの確認は考えられない」とする。

 一方、3管は清徳丸の僚船の全地球測位システム(GPS)の軌跡を分析。捜査関係者によると、当直交代直前の時点で、漁船団が針路や速度を変えなければ、あたごと衝突するコースにあったとみている。実際、漁船団の先頭にいた幸運丸などは午前4時に、衝突回避の行動をとった。

 このため、3管は前航海長がジャイロレピータを使うなど十分な監視をしていれば、適切な回避行動がとれたほか、衝突する危険を前水雷長に引き継ぐことができたとみている。

 3管は、前航海長についても前水雷長とともに業務上過失致死、同往来危険容疑で捜査。さらに、艦橋内の戦闘指揮所(CIC)でレーダーを監視していた見張り員についても、清徳丸を見落とした可能性が高いとみて詳しい事情を聞くなど詰めの捜査を急いでいる。3管は、6月中にも関係者を書類送検する方針。

 また、海難審判理事所の特別調査本部は6月上旬にも、横浜地方海難審判庁に審判開始を申し立てる。調査関係者によると、審判対象の指定海難関係人には、舩渡健前艦長(53)、前水雷長、前航海長、CIC責任者の前船務長(43)と、あたごが所属する海自第63護衛隊(3月に第3護衛隊などに再編)を指定する方針。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080531-00000054-yom-soci