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2008年05月30日(金) 17時01分

ベトナム人研修生「強制貯金」被害、200人で1億円超朝日新聞

 日本で研修生や技能実習生として働き、手当や給料の一部を引かれて預金させられたベトナム人の被害が、5月までの1年半に200人余りで1億1千万円を超えることが、神戸市の市民団体「NGOベトナム in KOBE」の調べで分かった。大半は労働基準法が禁じた「強制貯金」に当たる疑いが強いとみている。研修生・実習生が関東から九州まで幅広く強制貯金の被害に遭っている実態が明らかになるのは初めて。

  

 厚生労働省によると、企業側が強制的に給料から差し引き、金融機関に預けて通帳や印鑑を保管したり、自社で運用したりすることは労基法で禁じられている。違反すると6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金に処せられる。

 同団体は06年12月〜08年5月、ベトナム人研修生・実習生約300人から強制貯金の相談を受けた。このうち給与明細などの記録があった207人の総額は約1億1300万円。平均54万円、最高195万円だった。大半は企業が通帳と印鑑を管理していた。

 同団体の依頼を受けた弁護士らが企業側と交渉し、5月中旬までに15府県の55社に86人分の約4千万円のほぼ全額を返還させた。岐阜県が17社で最も多く、愛知県(14社)、三重県(9社)が続く。縫製会社や自動車部品会社が多い。

 同団体と弁護士らは、企業側が、低賃金で長時間、厳しい仕事をさせている研修生・実習生に逃げられないよう、手当や給料の一部を差し引いて預貯金に回していたとみている。研修・実習を終えて帰国する3年後に返す契約をしているケースが多い。ベトナム人らは解雇などを恐れて、通帳や印鑑を渡してほしいと言い出せなかったという。

 厚労省は、企業側が天引きして預貯金に回し、通帳などを管理することに本人が同意していたとしても、同意が形式的で、事実上、本人が返還を求められる状況になければ違法と説明する。一定期間返さないことを前提とした約束も好ましくないとみる。

 207人のうち最も多い5人に返した岐阜県の自動車部品メーカーは「逃亡を防ぐ目的もあったが、帰国時に貯金を返す契約で来ており、強制ではない。今はやっていない」と言う。

 企業との交渉に当たった大坂恭子弁護士は「逃亡させないために強制貯金をさせてパスポートを取り上げ、低賃金で過酷な仕事をさせ、住居は劣悪。研修生・実習生はまるで奴隷だ」と指摘する。(前田基行)

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