記事登録
2008年05月30日(金) 16時19分

<運び屋は「ロバ」>メール勧誘の「おいしい仕事」にご用心毎日新聞

 「送金業務。週に1000ドル」。こんな誘い文句に釣られると、犯罪組織の資金洗浄に一役買うことになる。騒ぎを起こすことが目的の愉快犯が多かったネット犯罪は、金目当ての組織犯罪の手段になった。詐取した金銭を安全な場所に移すために、「Mules」(ロバ)と呼ばれる運び屋が使われるという。

 インターネット犯罪の現状や課題を話し合う国際会議「ネット犯罪対策運用サミット」が東京都内で開かれ、米セキュリティー企業RSAの詐欺諜報ビジネスアナリスト、イノン・グラスナーさんが「運び屋」の実態を報告した。

 「運び屋」探しは、求職者が登録する「オンライン・リクルート・サイト」に「わな」を仕掛けることから始まる。求職者のメールアドレスを詐取し、従業員を探しているかのように、「イタリア・ローマの会社です。月曜から木曜まで1日1、2時間の仕事で、週1200豪州ドル稼ぐチャンスがあります。仕事はFand Distributerです」などと書かれたスパムメールを送る。グラスナーさんは、オーストラリアの求職者あてに書かれたとみられるメールを紹介した。メールは、一般の企業を装って出されており求職者にとっては、普通の採用プロセスと変わらない。「自宅で稼げる“おいしい仕事”に引っかかる人は多い」という。

 求職に応じた「運び屋」は専用サイトに登録する。合法の人材バンクに登録するのに似て、「中間管理職」が「稼働中」または「期限切れ」など「稼動状況」を把握している。グラスナーさんは「こうした違法な『企業』は何百とあり、今この瞬間にも増えている」という。

 「運び屋」の口座には、フィッシング詐欺などで不正に得た金が送られてくる。それを国際送金サービスを通して海外に移すのが「仕事」だ。グラスナーさんは「運び屋」に送られた「送金指示メール」のスクリーンショットを示した。「今日、約4000ドルが口座に入ります。資金を以下の受け取り手に送ってください」とあり、国名、都市名、相手の名前などが書かれている。送金先は東欧の都市が多いという。

 グラスナーさんが追跡したこの犯罪グループは、4カ月間存在した。その間、350人の「運び屋」が採用され、120人が実際に取引に関与。ほとんどは銀行口座を持っている普通の個人だという。送金額は、未遂も含め、1グループで計50万ドルに上った。運び屋の口座1つあたりで換算すると4000ドルと試算され、1件あたりの被害額は少ないが、集積することで多額になっているという。

 「運び屋」は1度送金すると「期限切れ」とされ、お役ごめんになる。グラスナーさんは「次は合法の仕事についてほしい」と訴えた。

【関連記事】 ネット犯罪対策サミット:「フィッシングキット」も流通 「人のぜい弱性」対策を
【関連記事】 ネット犯罪:「匿名性が高くても逮捕できる」 京都府警室長が捜査状況を報告
【関連記事】 「一本釣り」サイバー攻撃続発 米で深刻化
【関連記事】 FFも標的 仮想通貨が盗まれる!?
【関連記事】 セキュリティー:メール傍受のデモを披露 伝説の元ハッカー、ミトニック氏初来日

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080530-00000017-maiall-sci