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2008年05月30日(金) 14時08分

米国GDP上方修正でも消えない不況突入の懸念ダイヤモンド・オンライン

 テキサス州オースティン在住のポール・ボナノス(45歳)さんはこの春、2つの“買い物”を諦めた。ひとつは、トヨタ自動車のピックアップトラック「タンドラ」。もうひとつは、ソニーの薄型テレビ「ブラビア」だ。

 カーディーラーに務める彼の年収は日本円にして850万円。専業主婦の妻と高校生の娘、小学生の息子を養うには十分な額であり、手の届かない買い物ではない。しかし、世間から聞えるのは、失業率アップや消費低迷といった暗いニュースばかり。減収や解雇の憂き目に会うのではと思って、どうしても買う気にはなれなかったのだ。

 実際、生活実感も厳しくなりつつある。サブプライム問題の深刻化に伴い住宅ローン金利が上昇したのに加えて、特に今年に入り、食料品やガソリンなどの生活必需品の価格上昇に拍車がかかってきたからだ。

 贅沢は敵とばかりに、妻は、下の子の長ズボンをハサミで裁断して半ズボンにした。その姿にショックを受けたボナノスさんは、毎年恒例のマイアミへの家族旅行も今年は見送るつもりだという。

 米コンファレンスボードによると、消費者信頼感指数は5月、16年ぶりの低水準に落ち込んだ。5月29日に発表された1−3月の実質国内総生産(GDP)成長率の改定値が速報値に比べて0.3ポイント高い0.9%に上方修正されたことで、一部エコノミストからは、「不況は避けられそう」との楽観論も聞かれ始めている。だが、米国経済の7割を占める個人消費の地合いの弱さを見る限り、景気腰折れの懸念は今なお強い。

 米オートモーティブニュースによれば、1−4月の米新車販売台数は昨年比で7.7%減少した。勝ち組のトヨタですら、3.3%落ち込んだ。1−3月の携帯端末販売台数も5%の減少(調査会社ストラテジー・アナリティクス社)。ここ数年で初めての落ち込みである。

 消費者心理をここまで冷え込ませた元凶は、むろんサブプライム問題だ。だが、ここにきてさらに追い討ちをかけているのが、前出のボナノスさんの実感どおり、生活必需品の価格上昇である。米消費者物価指数は4月、前月比0.2%の上昇に止まったが、食品・飲料だけ見れば、プラス0.9%と過去18年来の高い伸びだ。ガソリンの価格も1年間で2倍強上がった。

 アラン・グリーンスパン前FRB議長は27日付けの英フィナンシャルタイムズ紙とのインタビューで、「最悪期を脱したと判断するのは早計」と警告を発した。彼の見立てでは、不況入りの確率は今なお50%以上ある。ちなみに、前回の米国経済の不況は2001年。その突入前まで、ニューヨーク連銀のエコノミストらが弾いていた確率はもっと低かった。

(ダイヤモンド・オンライン副編集長 麻生祐司)

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