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2008年05月30日(金) 00時00分

(上)老舗アイビレッジ vs. 急拡大のグラム読売新聞

東京工芸大学専任講師・茂木崇

 女性の時代と言われて久しいが、日本に比べて女性の社会進出が実現していると言われる米国で、女性サイトはどのような状況にあるのだろうか?代表的な4つのサイトと雑誌を例に、多彩な魅力を持つ米女性サイトの現状をご紹介しよう。

アイビレッジ(iVillage)

http://www.ivillage.com/

安定感抜群、女性の生活に欠かせない存在

 米国にはAOLリビング(http://living.aol.com/)、エル.コム(ELLE.com)(http://www.elle.com/)、シャイン(Shine)(http://shine.yahoo.com/)など、独自の個性をもった多数の女性サイトがある。その中でも代表格の位置を占めるのが、老舗のアイビレッジである。

 アイビレッジは健康、ダイエット、妊娠、子育て、美容、食、ウェディングなど、女性の関心が高い生活情報を網羅的に提供している。ビデオ、写真、メッセージボード、ブログなど各種機能も充実しており、女性の日々の生活に欠かせない役立つサイトである。

 創設は1995年で、1999年に株式の公開を果たした。そして2006年に、NBCユニバーサルの傘下に入った。同社は、米4大テレビネットワークの一つNBCや、映画スタジオのユニバーサルを持つ巨大メディア企業だ。

 NBCユニバーサルで、全デジタル部門の広告セールスを統括するピーター・ネイラー氏によると、NBCユニバーサルがアイビレッジを気に入ったのは、その安定性にあった(2007年8月13日付ニューヨークタイムズ)。アイビレッジのトピックやデザインが、他にかっこよさそうなサイトが出てきても、そちらに乗り移ってしまわないような女性向けであると評価したとのことである。

1年でユーザー数27%増だが、テレビとの連携は苦戦

 その後、アイビレッジはNBCのテレビ番組との連携を図ろうとし、同局の朝のニュース番組で、米国ナンバー1の人気を誇る「トゥデイ」の中で、アイビレッジについて何度も紹介した。しかし、NBCユニバーサル幹部が期待したほどには、アイビレッジにアクセスする人の数は増えなかった。また同局では、「アイビレッジ・ライブ」というテレビ番組をスタートさせたが、スタジオでの焦点の定まらないトークが中心だったため人気が出ず、再出発を迫られている。

 とはいえ、生活に欠かせない情報を提供するアイビレッジを頼りにしている女性は多く、米国内の月間ユニークユーザー数(サイトを訪れた人の数)は、2007年の1年間で、1354万5千人から27パーセント増加し、1723万4千人になった。堅実で生活に密着している点が、アイビレッジの強みである。

グラム・メディア(Glam Media)

http://www.glam.com/

米メディア業界で話題の企業

 そのアイビレッジのライバルと目されるに至っているのが、グラム・メディアである。アメリカの雑誌業界誌「フォーリオ」は、同社のCEO(最高経営責任者)であるサミール・アロラ氏を、2008年1月号で表紙に取り上げている。

 グラム・メディアの米国内の月間ユニークユーザー数は、2007年の1年間で、799万4千人から213パーセント増加し、2502万8千人になった。つまり1年間でユーザー数が3倍以上に増え、アイビレッジを上回ったことになる。

 同社はカリフォルニアとニューヨークの二極体制で、シリコンバレーに近いカリフォルニアが技術面を担当し、主要なメディア企業が集まるニューヨークが広告セールスなどを担当している。本稿の執筆に当たって、筆者はニューヨーク・オフィスで、同社国際部門を率いるラルフ・ハート氏に話を聞いた。

パートナーとのネットワーク構築に注力

 同氏によれば、同社は500を超えるサイトやブログと、パートナーの関係を結んでいる。パートナーにはファッション雑誌「ナイロン」や、芸能情報番組「エンタテイメント・トゥナイト」など著名なメディアも含まれ、パートナーに対して、そのパートナーにとって最適な広告を配信する。つまり、特定の分野に特化した広告ネットワークである。


グラム・メディアの配信ネットワーク。一つ一つの円は、協力関係のサイトを表す

 同時にグラム・メディアは、運営する女性サイト「グラム.コム」(Glam.com)とパートナーとの間で、お互いにユーザーを誘導し合うことで、双方にメリットをもたらす「ウィン−ウィン」関係を築いている。自らを「ディストリビューテッド・メディア・カンパニー」(配信型メディア企業)と称し、ハート氏は「傑出したビジネスモデルだ」と語る。

 グラム.コムはまた、アイビレッジとは対極的に、華やかなサイトである。ファッション、美容、ショッピングなどに力を入れており、一見したところでは、最先端のファッションに関心がある女性向けサイトという印象である。またビデオやクイズなど、様々な機能を加えることにも力を入れている。

 アイビレッジはコンテンツを自ら制作することに力を入れているが、グラム・メディアはコンテンツの制作よりも、ネットワークの構築に力を入れている点で、両者は異なっている。

急増するユーザー数、米国内では論争の的に

 しかし同時に、グラム・メディアのユーザー数をどうとらえるべきかは、米国内で論争になっている。同社のユニークユーザー数は、グラム.コムのユーザー数に、広告を配信しているパートナーのユーザー数を加えたものだからだ。

 これについて、米国の著名なテクノロジー系ブログであるテッククランチ(TechCrunch)のマイケル・アーリントン氏は、昨年8月12日付の記事で、グラム.コムだけのユニークユーザー数は、月間65万4千人だと指摘している。これが正しいかどうかは不明で、ハート氏からグラム.コムのみのユーザー数について回答を得ることはできなかった。

 グラム・メディアとアイビレッジはタイプが異なるメディアであり、どちらが勝ったかという議論には意味がないであろう。アイビレッジのデボラ・ファイン社長は、アイビレッジとグラム・メディアのユニークユーザー数の比較は、リンゴとカリフラワーを比較するようなものだと主張している。

 ハート氏によると、グラム・メディアは株式非公開企業であるため、収益・利益について公表することはしないが、広告から多くの収益を得ているとのことである。

 グラム・メディアはこれまでに確保している3000万ドルに加え、この2月には8500万ドルの資金を調達した。ノウハウを確立したということで、今後は女性以外の分野への展開も計画している。また今年、日本やイギリス、ドイツ、フランスにも進出する予定だという。

茂木崇 東京工芸大学専任講師

 マスコミュニケーション論、アーツマネジメント論などが専門。ニューヨークをこよなく愛し、ブロードウェーの最新事情にも詳しい。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20080528nt06.htm