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2008年05月30日(金) 15時54分

皆が満足できるうちに アルバン・ベルク四重奏団解散へ朝日新聞

 世界の室内楽をリードしてきたアルバン・ベルク四重奏団が結成38年で活動の幕を下ろす。6月1、2日のサントリーホールが日本での最終公演。「聴衆の温かい応援が私たちと作曲家との対話を後押しした」と第1バイオリンのギュンター・ピヒラーは振り返る。

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 70年、ウィーンフィルのコンサートマスターだったピヒラーら、第一線で活躍していた演奏家4人で結成。全員で米国に留学し、様々な現代音楽の奏法を身につけた。

 解散は、ピヒラーが楽壇生活50年の節目に決断。「難しい問題だったが、皆が満足できる演奏ができるうちにやめるのがいいと思った」

 東京に先立ち、神奈川県立音楽堂で24日、ベートーベン後期の傑作、第15番を演奏した。全集を2度出したほど思い入れの強い作曲家だ。

 クライマックスは緩徐楽章、ビブラート抜きで奏でた究極のピアニッシモ。ベートーベンは前衛なのだ——。最後にそう伝えんとする気迫に満ちていた。淡々と演奏を終えると、若い聴衆がどっと舞台につめかけた。

 「初来日の時、アマデウス・カルテットに『有名な曲が受ける』と助言されたが従わず、自分たちの弾きたいものを弾いた。そうしたら全然客が入らなかった。でも、4回目の来日あたりから、空気が変わってきた。今は日本の聴衆が、常に新しい音楽を求めていると断言できる」

 古典曲と現代曲を組み合わせたプログラムは、結成以来変わらない。今を生きる作曲家と、ここまで活発に交わった集団も珍しい。ルトスワフスキ、ベリオ、シュニトケら20世紀を代表する作曲家を刺激し、多くの新作を生むきっかけになったことが最大の名誉、とピヒラーは言う。

 今回、本番直前まで意見を闘わせるメンバーの姿に驚くホール関係者もいた。いまだにあうんの呼吸などない、という。「筆の速いモーツァルトすら、たっぷり時間をかけてハイドンにささげる六つの弦楽四重奏曲に取り組んだ。四つの弦楽器で宇宙をつくるのは大変な行為。いくら努力しても足りない」

 アルテミス・カルテットなど、次代の室内楽団も数多く育てた。今後は、指導や指揮などそれぞれ活動を続ける。「大切なのは自分ではなく音楽だ。そう後進に伝えたい」

 東京公演は1日午後4時、2日午後7時。カジモト・イープラス(0570・06・9960)。(吉田純子)

http://www.asahi.com/culture/music/TKY200805300220.html