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2008年05月30日(金) 00時00分

原爆症、5疾病以外も認定 集団訴訟で大阪高裁が初判断朝日新聞

 原爆症の認定申請を却下された近畿地方に住む被爆者9人が、不認定処分の取り消しと1人300万円の国家賠償を求めた集団訴訟の控訴審で、大阪高裁(井垣敏生裁判長)は30日、全員の不認定処分を取り消した一審・大阪地裁判決を支持し、国側の控訴を棄却する判決を言い渡した。4月から改められた新基準で積極認定するとされた、がんなど特定の「5疾病」ではない病気について、不認定を不当とした司法判断は初めて。国の認定行政はさらに見直しを迫られることになりそうだ。

 一連の集団訴訟では06年5月の大阪地裁判決以降、被爆者側勝訴の判決が6地裁で相次ぎ、高裁レベルで初の判決だった28日の仙台高裁判決でも被爆者側が勝訴した。大阪高裁判決で国は8連敗。一方、国家賠償の請求は今回も退けられた。

 06年10月に始まった大阪訴訟の控訴審では「病気が放射線を浴びたことに由来するか」(放射線起因性)が最大の争点になった。特に5疾病(がん、白血病、副甲状腺機能高進症、放射線白内障、放射線に起因する心筋梗塞(こうそく))以外の、貧血や白内障、甲状腺機能低下症などを患った原告5人についての判断が注目された。

 判決は「これまでの研究結果によっても、個別の疾患と放射線との関係を証明することは不可能」と指摘。原爆症について「ほかの要因が主な原因と認められない限り、認定するかどうかの対象とするのが相当」と述べた。あるべき認定方法については「被爆の状況から発症の経過、現在の健康状態までを全体的・総合的に把握し、被爆の事実が疾病の発生や進行に影響を与えたことが合理的に認められれば、放射線起因性が立証されたと評価すべきだ」とした。

 そのうえで、5疾病以外の人を含むすべての原告について「いずれも放射線起因性、要医療性(現在も治療が必要であること)が認められ、国の不認定処分は違法といわざるを得ない」と結論づけた。

 国側は5疾病以外の原告について「発症時期が被爆から数十年たっており、加齢や自己免疫などの原因もありうる」「被爆に起因するというならば、科学的知見をもって証明するべきだ」と主張したが、退けられた。

 一審判決は、国の従来の審査について、被爆者が浴びた放射線の量などから発症リスクを割り出す計算式「原因確率」を機械的に適用したものだと批判。「被爆後の行動や病歴、健康状態などを総合的に考慮して判断すべきだ」として、原告全員の不認定処分を取り消していた。

 原告は大阪、京都、兵庫の2府1県に住む71〜83歳の男女9人(うち3人死亡)。原爆投下時、家屋撤去作業の勤労奉仕で爆心地付近にいて被爆したり、陸軍衛生兵として負傷者救出や遺体処理のために爆心地付近に立ち入ったりした。原爆症認定の申請を却下され、03年に提訴した。うち亡くなった1人を含むがんの4人は新基準で認定されたが、国家賠償を求めて訴訟を続けてきた。

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200805300012.html