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2008年05月29日(木) 00時00分

東尋坊で1人の人に声かけ、4年で135人保護朝日新聞

 年間25人前後の自殺者が出る福井県坂井市の景勝地「東尋坊」で、元警察官らが運営する自殺防止相談所が開設からの4年間で135人を保護した。自殺を思いとどまった人の立ち直りにも手を差しのべているが、寄付頼みの活動資金ではとても足りず、スタッフは「限界を感じる」と焦りものぞかせる。(田中章博)

保護した男性からNPOへ届いた手紙。保護された後、両親と交わした「おはよう」の一言がよかった——とつづられていた

 東尋坊近くの土産物店街の一角にある自殺防止相談所「心に響くおろしもち」は04年4月に開設された。自殺者の多さを目の当たりにしてきた地元の旧三国署(現・坂井西署)の元副署長、茂幸雄さん(64)が代表を務めるNPO「心に響く文集・編集局」が、悩む人を励ます文集の発行ともちの販売をしながら運営。茂さんと事務局長の川越みさ子さん(55)が常駐している。

 NPOの会員のうち約50人が交代で夕方を中心に岩場を巡回する。「こんにちは」と一人ひとりに声をかけ、反応をみる。日没前に1人でがけ下を眺めている人や荷物が少ない人、カメラを持たない人には特に注意を払うという。

 保護したのは男性73人、女性62人。30代が最も多く30人で、50代28人、40代23人と続く。動機は男性がリストラや不就労、借金、うつ病が上位を占め、女性は病気に加え夫婦関係の破綻(はたん)など人間関係の悩みが多い。出身地は地元・福井県が30人。大阪府18人、石川県15人のほか東北や関東、九州の人もいた。

 岩場に通じる松林のベンチで泣いていた20代の女性は、職場内で犯罪行為を疑われていると打ち明け、「死んで無実を訴えたかった」と話した。遺書も持っていたが、話を聞くうちに落ち着きを取り戻し、父親に迎えにきてもらった。

 保護や相談を受けた後も、住まいや生活費の支援、生活保護の申請、ハローワークへの同行などをしている。こうした活動は寄付だけでは賄えず、これまで約300万円の赤字が出て、スタッフが自費を持ち出しているという。「このままではもう限界」と、「編集局」は行政に自殺志願者のサポートセンターの設置や岸壁への保安員の常駐などを求めている。

 坂井市は「自殺の名所」という負のイメージを取り払おうと、4月から地元の観光協会や警察と共に岩場の巡回を始めたところだ。

 「編集局」への問い合わせは水曜以外の日中、0776・81・7835へ。

http://www.asahi.com/kansai/kouiki/OSK200805290012.html