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2008年05月28日(水) 12時03分

<船場吉兆>女将「断腸の思いで廃業」毎日新聞

 「断腸の思いで廃業します」。28日、再建を断念して廃業することが明らかになった料亭「船場吉兆」(大阪市中央区)。女将の湯木佐知子社長(71)は会見の冒頭、用意していたコメントを読み上げ、深々と頭を下げた。牛肉などの産地偽装、食べ残し料理の使い回し……。「食の安全」を軽視した消費者不在の経営が、一流ブランド店を閉鎖に導く結果となった。

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 「食品の安全に対する信頼を裏切ったことを深くおわび申し上げます」。創業者の故湯木貞一氏の娘で、女将の佐知子取締役(当時)と喜久郎取締役(同)は昨年12月、一連の食品偽装問題の改善報告書を農水省近畿農政局に提出した後の会見で、深々と頭を下げた。また、佐知子取締役は「父から『おまえは何ということをしたんだ』としかられると思う。反省しています」と涙ぐんだ。

 しかし、隣に座った喜久郎取締役が報道陣から質問を受けた際、「頭が真っ白になっていた(と言いなさい)」と答え方をささやいて指示するなど、したたかな一面も見せていた。

 今年1月の営業再開時には、佐知子取締役が新社長となる体制を発表。その後、店内では佐知子社長が座敷で客をもてなし、信頼回復に努める姿を見せていた。

 再開後の営業は順調なように見えたが、5月に入って、船場吉兆本店で、客が食べ残した「アユ塩焼き」などの料理を別の客に回していたことが発覚。取締役でもある山中啓司料理長が店前で会見し、正徳前社長の指示だったことを認め、「かい性がなく、前社長の指示を断れなかった」と謝罪した。

 その後、使い回しは博多店(福岡市)、天神店(同市、既に閉店)、心斎橋店(大阪市、同)でも行われていたことが判明。佐知子社長は次から次に出てくるウミについて、「隠したという思いはない。(営業再開して)新しい体制で動いていて、考えが及ばなかった」と釈明に追われていた。

 ◇「悪い商売していたのだから」

 廃業方針が決まった船場吉兆本店は28日朝、出入り口の扉が閉め切られたままで、従業員の出入りはなく、ひっそりと静まり返っていた。店の前には、報道陣約40人が詰めかけ、通勤途中の会社員らが、足を止めて様子をうかがっていた。

 大阪府寝屋川市の男性会社員(42)は「あれだけ悪い商売をしていたのだから、当然の結果」と厳しい口調。また、大阪市平野区の女性会社員(62)は「自分たちの利益ばかり考えず、もっと客を大事にしてほしかった。大阪の誇りやったから、もったいないと思う。また一つ、老舗が消えると思うと寂しい」と話した。

 ◇「挽回の余地ない」

 船場吉兆が廃業することについて、新聞(しんもん)詠み河内音頭家元の河内家菊水丸さんは「人情に厚い大阪人は再開をもう一度応援してあげようとしていたのに、店は料理の使い回し問題で再び客を裏切ってしまった。ここまで来ると挽回(ばんかい)の余地はない。廃業は当然のけじめだ」と話した。

 作家の難波利三さんは「廃業は大阪の食文化にとっては大きな損失だが、料理の使い回しが発覚した時点でもうだめだと思っていた。最初の時点ですべてを明らかにし謝罪しておけば、廃業にまで追い込まれることはなかったはずで、事後処理も悪過ぎた。のれんに誇りがなく、もうけばかりに走った結果だ」と突き放した。

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