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2008年05月26日(月) 00時00分

厚労省の「診察時間5分ルール」、医師から不満の声朝日新聞

 厚生労働省が4月から、医師の診察時間に5分の目安を設けたことに波紋が広がっている。「3時間待ちの3分診察」との批判を受けたための時間制導入で、診察時間が短ければ医師の報酬は減る。同省は「患者の満足度アップと医療費削減につながる」と強調するが、医療現場からは「患者の待ち時間が延びた」「経営が成り立たない」などと否定的な声が上がる。

時間を計りながら診察する医師=大阪市城東区、川村直子撮影 【提供元キャプション】ストップウォッチで診察時間を計る医師

 「時計が気になって集中できない」。岡山県倉敷市で小児科、内科のクリニックを開く山岡秀樹院長は、壁時計を見ながら診察を続ける。5分以上問診や説明をしないと、再診の場合の診療報酬として医療機関に支払われる「外来管理加算」(520円)が請求できない。「患者が多い日は全員に5分なんて無理だ」

 大阪府池田市で脳神経外科の診療所を営む東保肇院長は、3分程度で済んでいた慢性期の患者にも初診と同様の診察をするようにした。この結果、1日の診察時間は3時間近く長くなった。「丁寧に診ていると言えば聞こえはいいが、治療効果が上がったとは言い難い。患者からは待ち時間が長いと怒られる。誰にもメリットがない」

 厚労省は「5分ルール」を導入した理由について「丁寧な診察により患者の満足度を上げるためで、当たり前の診察をしていれば1人に最低5分は必要」と説明。1日に100人以上を診ているような医師は診療報酬請求書のチェックも検討するという。

 国の真の狙いは医療費の削減。今年度の診療報酬改定で、厚労省は退職が続く勤務医の待遇改善策として1500億円を計上した。その財源として、勤務医より高い開業医の再診料の引き下げを狙ったが、日本医師会(日医)の猛反対に遭い、加算部分を削ることで双方が妥協した。

 大阪市城東区の笹川皮フ科では、2人の医師が1日平均180人の患者を診ているが、初診や重症患者に時間配分を多くするために、5分を超えるのは十数人に過ぎない。4月は180万円以上の減収となる見込みだ。開業医の間には「特定の診療科への負担が大きい。再診料を削った方が公平だった」と日医の判断を疑問視する声もある。

 精神科では、開業医にとって主な収入源になっている「通院精神療法」の再診にも時間制が導入された。これまでは診察時間に関係なく、患者1人につき3600円の報酬がついたが、4月から30分未満は3500円、5分未満はゼロになった。大阪府内の精神科クリニックは「経営上の対策」として、診察を予約制にし、1人当たりの診察時間を延ばした。このため診察枠のほとんどは埋まり、初診の予約は1カ月待ちという。

 患者側も憤る。大阪精神障害者連絡会の塚本正治事務局長は「精神科の患者は、短時間の面談の方が心理的負担が少なくて効果がある時もあれば、じっくりと話を聞く必要がある場合もある」と疑問を投げかける。

 患者にとって診察が5分に満たない場合、自己負担は一般のクリニックで50〜150円、精神科で350〜1050円程度減る。薬の受け取りだけを目的とした「お薬受診」の患者は、診察を拒めば支払額を少なくできる。京都府医師会の安達秀樹副会長は「経済的な負担を減らしたい人は医師の話を聞かずに帰ろうとするだろう。これでは医師と患者の間に信頼関係は築けない」と言い切る。(重政紀元)

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 〈外来管理加算〉200床未満の病院や診療所で、再診の患者に対して検査や医療処置がなかった場合に、再診料(病院600円、診療所710円)に上乗せして支払われる診療報酬。昨年度までは時間にかかわらず520円だった。継続的医療が必要な患者に診療計画を作ったり、説明したりすることの対価だが、「何もしないで算定している医師がいる」などの批判も出ていた。

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200805250052.html