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2008年05月25日(日) 18時08分

“人間らしさ”取り戻しても死刑判決は覆らず産経新聞

 内省を深め、“人間らしさ”を取り戻しても死刑判決は覆らなかった。

 平成18年6月に起きた東大阪大学(大阪府東大阪市)の学生ら2人が岡山市内で生き埋めにされた集団リンチ殺人事件の主犯格で無職、小林竜司被告(23)の控訴審判決公判。大阪高裁は「人間性を欠く冷酷な所業」と断罪し、求刑通り死刑とした1審・大阪地裁判決を支持、小林被告の控訴を棄却した。

 屈強で眼光鋭い不良(ワル)…。逮捕時の面影はすっかり影をひそめ、残酷な生き埋め殺人を主導した人物とは思えないほど変貌(へんぼう)した小林被告。拘置所で写経をして仏壇に手を合わせる日々を送っているという。2度目の死刑判決をどんな思いで聞いたのだろうか。
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 「失礼します」

 5月20日午前10時半前。大阪高裁201号法廷に姿を見せた小林被告ははっきりとした口調であいさつし、深々と頭を下げた。

 丸刈り頭にめがねをかけ、白いワイシャツに黒いカーディガン姿。10キロ以上はやせたと思われるほどほおはげっそりし、顔色は青白い。

 2年前に逮捕された当時、新聞やテレビに映し出された姿はがっちりした体形で眼光も鋭く、不良グループのボスという貫禄(かんろく)を漂わせていたが、こうした雰囲気はみじんも感じられない。もともとあまり背が高くないこともあり、あどけない高校生のように見える。

 初めて小林被告を見た人なら、2人を生き埋めにして殺害した人物とは想像もつかないだろう。

 激しいリンチを加えた上、ショベルカーで廃棄物集積場に穴を掘り、2人を生き埋めにした小林被告。控訴審で弁護側は「犯行当時21歳と若く、更生の可能性が十分ある」と死刑回避を求めていた。

 しかし、判決は「控訴棄却」。判決理由では、「更生の可能性が否定できない点は、被告人にとって斟酌(しんしゃく)されるべきではあるが、犯行の重大性などから、死刑を回避すべき決定的な事情とはいえない」と厳しい言葉が並んだ。

 裁判長が判決を読み上げた約30分間、小林被告は背筋を伸ばして証言台に座り微動だにせず、一点を見つめたまま聞き入っていた。
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 事件はささいな恋愛トラブルが発端だった。

 元東大阪大学生(23)=実刑確定=の友人の徳満優多被告(23)=上告中=が、被害者の同大学生、藤本翔士さん=当時(21)=の恋人に交際を求めたためだ。

 当初は立腹した藤本さんが、もう1人の被害者、岩上哲也さん=当時(21)=らとともに徳満被告らに暴行した。これに報復するため、元東大阪大学生と同郷(岡山県)の幼なじみだった元大阪府立大生の広畑智規被告(23)=1審無期懲役、控訴中=や小林被告らに相談。被害者とは面識もなく、何の利害関係もなかった小林被告が“子分”の地元の少年らを集め、暴力がエスカレートした。

 「キレたら何をするかわからないタイプ」、「幼なじみに頼られていい格好したのでは」…。

 事件発覚後、小林被告について地元岡山県の同級生らはこう話していた。

 また、幼少期の小林被告の家庭はすさんでいた。両親はパチンコに明け暮れ、家では日常的に暴力をふるう。2人いた弟の世話をほとんど小林被告に押しつけていたという。

 こうした家庭環境に嫌気がさし、家出も繰り返していた小林被告は小・中学校時代、広畑被告らと不良グループをつくっていた。ただ、リーダー的な存在は小林被告ではなく広畑被告だった。

 同級生らは広畑被告について、「ずる賢くて、表に出ずに裏で人を操るタイプ」と評す。

 藤本さんらと交渉するように見せかけて岡山県に呼び出し、広畑被告らが仲間を集めた小林被告らとあらかじめ合流して待ち受け、集団リンチで報復する−。その計画のほとんどは広畑被告が描いた筋書き。小林被告はその筋書きに従って実行役の中心を担っただけだった。
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 事件で起訴されたのは小林被告ら計8人。

 公判では、最初に相談した元東大阪大学生や犯行計画を立てた広畑被告らは直接手を下していないことなどを理由に殺人罪について否認した。だが、いずれも1審で殺人の共謀成立が認定され、広畑被告が無期懲役になるなど実刑が言い渡された。

 8人の中で死刑判決を受けたのは小林被告だけ。弁護人は「実行犯としての罪の重みは認識している。だが、犯行をそそのかし、埋めることも同意した広畑被告が無期懲役で、共犯者全員のために事件が発覚しないよう実行役を買って出た自分だけがなぜ死刑なのかという、納得できない部分があるようだ」と小林被告の心情を分析する。

 逮捕後しばらくしてから写経を続け、拘置所内に設置されている仏壇に手を合わせているという小林被告。弁護人は控訴審で「こうした行動は内省を深めている証拠」とした上で、「劣悪な家庭環境から優しさなどは生まれようがない。事件を機に逮捕され、初めて『人間らしさ』を取り戻し始めている」と死刑回避を求めてきた。

 弁護人は広畑被告に控訴審で証言を求めたが、拒否されたという。

 「広畑被告が事件当時のことを証言してくれていたら、なんとか死刑を免れたかもしれない」と弁護人。小林被告は今、上告する意思があることをほのめかしている。(津田大資)

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