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2008年05月23日(金) 17時13分

ヤフーをあきらめきれないマイクロソフトの裏事情ダイヤモンド・オンライン

 「マイクロソフト(MS)がヤフーに買収を再提案しないならば、このゲームはおしまいだ」——。

MSへの身売りを米ヤフーに迫るため委任状争奪戦に乗り出した大物アクティビスト(物言う株主)のカール・アイカーン氏。その同氏の思いを、ある関係者はこう代弁する。
 
5月18日、MSはヤフーについて声明を出し、その中で、完全買収の選択肢を保留しつつも、当面はそれ以外の取引(提携)を模索するとの考えを明らかにした。MSは1月末にヤフーに対して総額446億ドルの買収を提案したが、価格で折り合わず5月3日に断念した。しかし、その後、ヤフー株を買い進めたアイカーン氏がMSへの身売りを求めたことから、その流れに便乗して、完全買収を再び仕掛けるのではと見られていた。今回の声明は、投資家の希望的観測に冷や水を浴びせかける格好となった。

 とはいえ、MSからすれば、この提携路線はじつは「名を捨てて実を取りにいった作戦」(関係者)だ。そもそもヤフー買収を目指した最大の目的は、グーグルのオンライン市場支配に待ったをかけることにあった。それなのに、ヤフーがMSを嫌って、グーグルとの連携模索に動いてしまった。関係者によれば、「ヤフーとグーグルとの提携交渉は現在大詰めを迎えている」という。

 これは、MSとって文字通り最悪のシナリオだ。ネット広告の世界で突き放されることだけが理由ではない。グーグルがネット検索市場でヤフーの挑戦を受けずに済むようになれば、アプリケーションソフトをウェブ経由で提供するSaaSやその上位概念であるクラウドコンピューティングに経営資源をさらに集中させることが可能になり、MSの収益源であるソフトウェア事業にとって大きな脅威となるからだ。

 米有力投資銀行の幹部は、「ヤフー側に有利な提携案を提示しても、グーグルとの連携だけは食い止めなければならない事態」と指摘する。米有力各紙によると、MSは、ヤフーに対して、ネット検索事業の買収、そしてヤフー本体への一部出資を提案しているという。

 今後の行方を左右するのは、なにより同社の大株主の動向だ。関係者によれば、ヤフー大株主は大きくグーグル派とマイクロソフト派に二分されているという。

 グーグル派は、ヤフーがネット検索広告をグーグルに委託すれば、広告収入が分配されることから、現金収支が劇的に改善すると主張する。一方、MS派は、ヤフーがネット検索広告システムに投じた巨額の投資が無駄になるとして、グーグルの軍門に下ることの不利益を強調する。ただ、MS派の多くの大株主は、破格の買収価格が提示された完全買収だったからこそ、賛同していたとの見方もある。

 名を捨て実も捨てることになれば、ただでさえ赤字続きのMSのネット事業への風当たりが今後さらに強まることは必定だ。
(ダイヤモンドオンライン副編集長/麻生祐司、ジャーナリスト/マイケル・タン)


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