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2008年05月23日(金) 12時08分

平泉の世界遺産登録「延期すべき」 ユネスコ諮問機関朝日新聞

 中尊寺金色堂などを含む平泉(岩手県)の年内の世界遺産登録が厳しくなった。パリにある国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会の諮問機関・国際記念物遺跡会議(イコモス)は22日(日本時間23日未明)、世界文化遺産への登録を延期すべきだとの勧告を同委員会事務局に通知した。

修学旅行の生徒らでにぎわう中尊寺金色堂=岩手県平泉町 中尊寺本堂がある関山丘陵から平泉町市街を望む。北上川の手前の緑地が高館=本社機から、戸村登撮影

 7月の同委員会で登録が見送られることになれば、国内候補地としては初めてだ。

 「登録延期」は4段階の評価の下から2番目。国内の候補に、トップ評価の「登録」以外の勧告が出るのは、昨年世界遺産に登録された石見(いわみ)銀山に続いて2回目。

 石見銀山も勧告は「登録延期」だったが、「自然との共生」に重点を置いて巻き返しを図り、本番で逆転した。昨年は日本が世界遺産委員会の委員国だったため、他国に働きかけやすかった。だが昨年で任期は終わり、委員国でないと会議など発言の場が少なくなるため、かなり不利な状況だ。

 文化庁は平泉の価値を「浄土思想が核心を担った平泉文化の伝統は、宗教儀礼や伝承、文学作品などを通じて、今も日本人の精神構造に多大な影響を与えている」と主張してきたが、核となる浄土思想が十分に理解されない結果となった。

 イコモスは、「平泉と浄土思想との関連性の重要さ」や「平泉の景観が『人類の歴史上の重要な段階を物語る見本』であること」などについて「十分に証明しきれていない」などと指摘。地下遺構が大半を占め、「浄土思想」が現在、目にみえる形ではわかりにくいことも、不利に働いたとみられる。

 世界遺産委員会は7月2日からカナダ・ケベック市で開かれる予定。審議結果はイコモスの勧告に従う例が多く、近年は新規登録を抑制する傾向にもある。延期が決まると、推薦書の提出と現地調査を再び行うことになり、登録は最短で2010年となる。

 渡海文部科学相は23日の会見で「努力を重ねてきたにもかかわらず、理解を得られていなかったことは非常に残念だが、石見銀山の例もある。勧告の理由についてさらに分析し、景観の価値を各国に訴えかけ、最大限の努力をしていきたい」と話した。

 国内の世界遺産は現在、白神山地、原爆ドーム、日光の社寺など、自然遺産と文化遺産あわせて14件が登録されている。

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 〈平泉〉 12世紀、奥州藤原氏四代により、平泉文化が展開された。金色堂で知られる中尊寺などの史跡が残っている。世界文化遺産は当初、ピラミッドのように特徴的な建造物が多かったが、94年にユネスコ世界遺産委員会は、「人類と自然との共生を示す文化的景観」などに力点を置く方針を示した。これを受けて、日本政府は「浄土思想を基調とする文化的景観」をテーマに据え、毛越寺、無量光院跡など、平泉町、一関市、奥州市の9の構成資産で世界遺産登録を目指している。

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200805230002.html