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2008年05月22日(木) 15時21分

電子メール送信の法規制が大幅強化ITmediaエンタープライズ

 総務省と経済産業省は、増加の一途をたどる迷惑メール問題に対処するため、電子メール送信に関する法律の改正案を国会に提出している。改正案では広告メールの送信に利用者の事前承諾が必須となるほか、違反した事業者に対する罰則の大幅な強化、国際機関との連携強化が盛り込まれている。

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 2省が提出しているのは、「特定商取引法」(経済産業省)と「特定電子メール法」(総務省)の改正案。改正案では、前者は通信販売などにおける広告メールの依頼主や代理店、配信事業者について、後者は電子メール送信事業者を対象に、「迷惑メール」と化した広告メールの送信ルールの整備と違反者に対する厳しい罰則の導入が柱となっている。それぞれの改正案は対象範囲が異なるものの、新たに導入するルールは2省で足並みを揃えた。

●「オプトイン」方式の全面導入

 改正案で新たに導入されるのが、海外でも普及しつつある「オプトイン」方式。オプトインは、利用者が事前に承諾した場合に限って広告メールの配信を認めるもので、承諾なしに配信をした場合に処罰の対象になる可能性がある。さらに、利用者の承諾を記録して作成・保管することが義務付けられ、電子メール本文に承諾を拒否する場合の連絡先などを表示することが義務化される。違反が疑われる場合に、所轄官庁がプロバイダに対して実態報告を求めるといった内容も盛り込まれている。

●2省の改正案の共通事項

・事前承諾した利用者にのみ電子メール広告を送信できる(オプトイン)
・受信拒否の通知を受けた場合、以後のメール送信を禁止する
・承諾記録の作成、保存の義務
・受信拒否に必要な連絡先(メールアドレスなど)や名称の表示義務
・関係機関が利用者の電子メールなどの情報提供をプロバイダなどに求められる
・違反者に対し、関係機関が報告の提出や立ち入り検査を実施できる

 経済産業省による特定商取引法の改正案では、広告主と広告代理店、送信事業者が対象になり、各自に上記事項への対応が求められるようになる。一方、総務省が提案する特定電子メール法の改正案では、違反した法人に対する罰則を大幅に強化する。罰金は現行の100万円以下から3000万円以下に引き上げられ、虚偽報告の場合も同30万円以下から100万円以下に引き上げられる。

 経済産業省によれば、オプトイン式は米国やEU、オーストラリア、韓国などですでに導入され、プログラムを利用したメールアドレスの自動収集を禁止する国もある。利用者の承諾記録の作成・保管を義務付けるケースは珍しいという。

●改正案の効果のほどは?

 現行法で広告メールに関する規制は、タイトルや本文内に「未承諾広告」との表示を義務付ける項目だけとなっている。実際には表示義務が守られていないばかりか、広告メール配信に関わる分業体制の広がり、フィッシング詐欺に代表されるメールアドレスや名称の詐称、ボットネットなど悪質なプログラムを利用した海外からの大量配信など、インターネット犯罪の拡大と連動した複雑な形態になり、現行法では対応が非常に難しくなっている。

 5月20日に都内で開かれたインターネット協会主催のイベントでは、経済産業省商務情報政策局の諏訪園貞明課長、総務省綜合通信基盤局の扇慎太郎課長補佐が出席し、迷惑メール配信の実態と改正案の有効性について説明した。

風俗営業法を参考に

 扇氏によれば、国内で流通する迷惑メール(日本語)の78%は出会い系サイトの勧誘であり、アダルト関連の広告が15%となっている。一方、海外では商品や金融が、医療がそれぞれ20%前後となっている。

 諏訪園氏は、実際に摘発した出会い系サイト業者での事例を紹介した。経済産業省では利用者の報告を基に業者への立ち入り調査を実施したところ、業者が代理店にメール配信を依頼し、さらに代理店が送信事業者に委託している様子が明らかになったという。事情聴取でこの業者は、「代理店に一切を任せているので実態は詳しく分からない」と供述した。

 「こうした業者は、最終的に利用者に金銭を振り込ませるのが目的だが、振込み先の金融機関は国内であることが多く、業者の所在も国内である場合が多いとみられる」(諏訪園氏)

 現行法では、調査権限の業者の所在地を特定するのは非常に困難であるといい、改正案では所在地を特定できる可能性が高まるという。「業者もサービスの仕組みや決済口座を管理する手間を考えると海外に拠点を移すのは難しい」(諏訪園氏)

 罰則強化については、迷惑メールの大多数が性犯罪に直結する可能性の高い出会い系やアダルト関連であることから、風俗営業法の罰則規定を根拠に、迷惑メールの配信でも厳しい内容の導入が可能になったという。

海外からの送信にも対処

 セキュリティベンダーなどのリポートによれば、迷惑メールの送信元はPCあてや携帯電話あてを問わず、海外からのものが大半を占める。メール送信者は、管理の届いていないPCなどをハッキングして悪質なプログラムを仕掛け、ハッキングしたPCなどを不正に操作して迷惑メールを大量に送信しているといわれる。ハッキングされたPCをネットワーク化して迷惑メールを大量に送りつけるシステムがボットネットである。

 2省では改正案策定と同時に、海外の迷惑メール問題担当機関との連携体制を整備しつつあるという。

 経済産業省は、昨年9月に中国政府と迷惑メール追放に関する提携で合意し、迷惑メールを送信していた業者を摘発するように中国政府に働きかけるといった取り組みを始めているという。

 諏訪園氏によれば、海外が送信元となった迷惑メール全体に占める中国の割合は、提携前の約80%から現在は40%以下に減少した。しかしながら、迷惑メール全体の流通量は増え続けているため、全体量が減少したわけではない。「実態は“いたちごっこ”が続いているが、中国との例のようにこうした枠組みを広げていくことで迷惑メールの減少につなげたい」(諏訪園氏)

 総務省の改正案では、迷惑メール対策に取り組む際の海外機関との連携や、海外発の迷惑メールも法の対象をなることが条文で明確に規定された。扇氏は、「従来は個人情報保護や権限が壁となったが、今後は関係機関が積極的に調査できるようになるだろう」と話す。総務省でも、すでに国際電気通信連合(ITU)や経済開発協力機構(OECD)、各国の通信監督省庁との活動基盤を整備しているという。

●残された課題は

 2つの改正案では、広告メールの配信に関わるすべての事業者に利用者の承諾を必要とするオプトイン方式の導入を義務付ける。施行されれば、新たな仕組みの導入負担や運用上の混乱が生じる可能もある。

 これに対し、諏訪園氏は「改正案は悪質な業者をあぶり出すのが目的。健全な事業者はすでにオプトインに近い仕組みを実施しており、施行後の影響は少ないだろう」と話す。総務省が昨年秋に実施したパブリックコメントの募集では、寄せられた意見のほとんどが迷惑メール対策の強化に賛同するものだったという。

 イベント出席者からは、「どのような内容をもって“承諾”とみなすのか」といった意見が寄せられるなど、運用上に関する課題も残されているようだ。

 改正案はすでに衆議院で可決されており、参議院での審議に移っている。参議院で可決されれば、「足並みを揃えて、年内にも施行したい」(諏訪園氏、扇氏)といい、迷惑メールの法的規制が近く強化される見通しである。

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