記事登録
2008年05月21日(水) 18時23分

盗品で鯨肉横領を告発したグリーンピースオーマイニュース

 環境保護団体グリーンピースは5月15日、日本の調査捕鯨船の乗組員が、捕獲した鯨肉を横領していたとして、同船乗務員ら12人を業務上横領罪で東京地検に告発した。

 グリーピースの発表によれば、調査捕鯨船「日新丸」によって加工された鯨肉は、その一部が乗組員によって横領されていた。その証拠品として「横領」された鯨肉も公開された。

 ここで気になるのは、グリーンピースがどうやってその「証拠品」を手に入れたのか、である。これについては、グリーンピースがみずから経緯を以下のように説明している。

 その後、日新丸に設置されているクレーンで合計90箱程度個人の荷物と思われる箱が岸に下ろされ、岸で待っていた船員がそれらの箱をバケツリレーのようにして西濃運輸のトラックに積んだ。この光景は、2006年の金沢港での光景と酷似していた。その後、調査チームは西濃運輸のトラックを陸路で追跡した。

 (中略)この配送所において、品名がダンボールと書かれているにも関わらず、明らかに重い箱を発見。送り主も職員名簿に記載されている「製造手」の1人であることを確認できたため、この箱の中身を市内のホテルで確認することにした。

 つまり、グリーピースは運送会社の配送所から箱を無断で持ち去ったことを認めており、運送会社も被害届を警察に提出している。

 鯨肉を乗組員が持ち帰る行為に関しては、日本鯨類研究所の石川創調査部次長がNHKの取材に対し、

 乗組員に対し土産として鯨の肉を配る習慣は古くから続くもので、国からも『問題はない』と言われている。土産として渡す鯨は1人当たり10キロ足らずにすぎず、数百キロのまとまった肉を横流しすることなど不可能だ。

と説明している。

 これに対し、グリーンピース側は16日に再び記者会見を開き、問題の鯨肉は土産とは違うものだと主張した。

 しかし、運送会社の倉庫に無断侵入して荷物を持ち去った点については、

 「巨大な横領行為を明らかにするにはこの方法しかなかった。西濃運輸に迷惑を掛けたならおわびしたい」

と述べたものの、送り主の許可無く荷物を持ち出して開封した点については、横領行為を暴くためなので違法性は無い、と強気の姿勢を崩していない。

 ここでさらに疑問が生まれる。

 今回まさしく「証拠品」が発見されたため「横領を告発」という体裁を保つことは出来たものの、もし何も見つからなかったら、彼らは運送会社の配送所に無断で侵入し、無断で荷物の伝票などを撮影しただけ、ということになる。そのことについて、彼らはどのように責任を取るつもりだったのだろうか。

 いや、発見に至った現在においても、その過程で行われたこれらの行為が、行政機関ですらない団体によって「横領行為を暴くため」という名目で行われたことの是非は、問われなければならないのではないか。

 また、発表には「この箱は、中身を確認した後に元に戻す予定で箱の底から開封した」とあるが、本当に元に戻したのか、いやそもそも、発表資料に掲載されている写真の鯨肉は本当にその箱の中に入っていたのか、告発した彼ら自身の言葉以外に信用出来るものが見あたらない。

 記者会見では「証拠品」として鯨肉の現物を公開していたが、これは元々は送り主である乗組員の物だったはずだ。しかしグリーンピース側は、

 当初は、箱の中身を調べた後に、その箱を西濃運輸の配送所に戻す予定だったが、この箱の中身が重大な横領行為の証拠であると判断し、このダンボールを確保することに決めた。その後、市場での調査などを行なった上で、この箱を証拠として検察に提出し、共同船舶株式会社社員による横領として告発することにした。

と、堂々と説明している。だが大体、勝手に持ち出した荷物をどのようにして配送所に「返却」するつもりだったのかも疑問が残る(結局、グリーンピースは21日、証拠となる鯨肉を東京地検に提出した)。

 信念に基づいて行動する事は立派な事かも知れない。しかし、その信念が果たして本当に正しいのか、正しかったとして、それを実現する手段がどうあるべきか、そこまで精査した上で行動を起こさないと、いずれは独善に走って市民の支持を失い、本来崇高だったはずの信念すらも白眼視される事になるだろう。

 仮に警察が同じ事をしたら、令状も取らずに個人の荷物を検閲したとして大バッシングを受けたに違いない。警察は許されず、自分たちは許される。そこに違和感を感じる人は少なくないはずだ。

 今回の発表で、「証拠」発見に至らず一方的に権利や財産を侵害されただけに終わった事例が過去に多数闇に葬られているのではないか、と不安に感じた人もいることだろう。そういった不安に対してどのように向き合うのか、グリーピース側の対応が待たれる。

 グリーンピースが発表した資料の最終ページには「これで調査と言えますか」という旗を掲げた、グリーンピース職員とおぼしき男性の写真が載っている。おそらく調査捕鯨という名前と実情の違いを批判しているのだろう。しかしこの言葉、今回の件でそっくりそのまま自分たちに跳ね返ってくるような気がするのは私だけだろうか。

(記者:瀬田 隆一郎)

【関連記事】
瀬田 隆一郎さんの他の記事を読む
【関連キーワード】
鯨肉
捕鯨

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080521-00000010-omn-soci