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2008年05月21日(水) 10時45分

「インディーズ系メーデー」数伸ばす 若者を中心に朝日新聞

 主張もパフォーマンスも多様 欧州が発祥

 インディーズ系メーデーと呼ばれる若者を中心にした集まりが、ここ2、3年、全国で数を伸ばし続けている。今年は4月27日の名古屋「LOVE&ビンボー春祭り」を皮切りに、5月18日の大阪「長居公園大輪まつり『ちゃぶ台とか、どうよ?!』」まで約1カ月続いた。このメーデー、報道するのが難しく、またその難しさこそがキモなのだという。

 非正規雇用「労働者意識ない」

 通行人が口を開け、大音量で踊る数百人の縦列を眺めている。5月1日の東京・高円寺。この街の若者がする「変なこと」には慣れっこのはずの住人も、さすがに何のことやら分からない“メーデー”だった。

 DJが乗ったトラックに先導されながら踊り、ダイブし、クラリネットを吹き……。参加者が掲げていたメッセージもヘンだった。真っ黒な旗に大きく「経団連」と書かれ「我々は経団連である。全部よこせ」と絶叫。「共謀せよ」「昼寝させて」のプラカードがある。

 主宰したのは高円寺でリサイクルショップを開く「素人の乱」(松本哉氏ほか)の面々。松本さんによると「労働にろくに興味がないやつのためのメーデー」だ。

 「労働運動には今いちピンとこない」という松本さんによれば、70年代に学生運動が盛り上がったのは「大学生」であることに自らのアイデンティティーを強く感じる若者が多かったから。また、高度成長期からバブル崩壊まで、曲がりなりにも労働運動が機能したのは、自分は何よりも「労働者」であると規定する人たちが社会の中核だったから。今はどうか。

 「僕らのように勝手に商売始めちゃう人や、アルバイトで絶対正社員にはなれないような人間が、自分を労働者であるとアイデンティファイするわけがない。『労働に意味を見いださない。でも生きていっていいだろ』。そんなオルタナティブな生き方を、メーデーで表現したかった」

 規模もいろいろ。500人以上集まるのがあれば、長野・松本の「立ち上がれない者たちのメーデー」にきた若者は十数人。鎖につながれたスパイダーマンが担架に横たわり、買い物かごに載せたサウンドシステムからテクノを大音量で流す。

 テーマも労働問題だけではない。名古屋は環境、5月3日の東京・新宿はプレカリアート(不安定な非正規の雇用者、失業者)、福岡は反グローバリズム。

 大阪・長居公園は、昨年、大阪市によって強制撤去された野宿者テント村が緩やかなテーマになってはいた。会場では医療保険に入れない人のための医療相談など出店が出た。ステージではロック、フォーク、ブルース、アバンギャルドなど「テント村から元気をもらった」というミュージシャンが演奏する。

 これらメーデーは、既成の大メディアに扱われにくいことが最大の共通点だろう。今までのメーデーの文脈から趣旨を説明するのが難しいからだ。しかしこうした動きは、欧州では「ユーロメーデー」と呼ばれ広がっている。欧州の労働運動にもかかわる明治学院大の平沢剛講師によると、ユーロメーデーは01年にイタリアで始まった。

 ふざけて見えても

 「方法論として最大の特徴は、Diversity of Tactics(戦術の多様性)。旗を振ってシュプレヒコールを繰り返す従来のデモだけではなく、テクノを大音量で流して踊ったり、巨大なパペットを製作したり、仮装したり。一見、ふざけていると思える表現方法も含めて、お互いを認めあって主張する運動です」

 その主張も、たとえば高円寺デモのように「家賃をタダにしろ」「撤去した自転車をタダで返せ」などといったものまでも含めて認める。

 「過激と思うでしょうが、実際には、非正規労働者の権利保護も最初は既成の労組組合員を含め理解されなかった。ユーロメーデーでの粘り強い主張があって、『プレカリアート』という概念が世界的に定着した」(平沢氏)

 現在ではベルリンなど欧州の多くの都市で開催され、性的マイノリティー、移民労働者のグループも数多く参加。30万人規模の大行動となることもある。

 “ふざけた”主張も含んだ、享楽優先のメーデー。バーチャルな左翼ごっこに終わるのか、新しい社会の可能性を切り開くのだろうか。(近藤康太郎)

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200805210069.html