記事登録
2008年05月21日(水) 00時00分

能登の「ごいた」、彦根の「カロム」 郷土ゲームが熱い朝日新聞

 全国各地に伝わる郷土特有のゲームが脚光を浴びている。インターネットを通じて評判が高まり、ゲームとして市販されるやいなや見本市の人気投票で1位になったり、世界選手権やワールドカップと銘打つ大会の盛況をばねに地域おこしに貢献したりする遊びもある。伝統遊戯の発信力はとどまるところを知らない。

盤を囲み、「ごいた」を楽しむ男性たち=石川県能登町宇出津 ごいたに用いられる竹製の駒。将棋の駒より一回り小さい=石川県能登町宇出津

 「金(きん)か。じゃあ、この手しかないがね」

 「ここで上がっとこうか」

 「えぇ、上がりかい」

 能登半島の港町、石川県能登町宇出津(うしつ)地区の民家。地区に伝わる遊び「ごいた」の盤を男たちが囲み、笑い声があがる。

 2人1組で盤の四方を囲み、将棋に似た駒で対戦する。将棋とマージャンを合わせたようなゲームだ。明治時代に町の商家が考案したとされるが、名前の由来は不明。地元漁師の娯楽で、夏の休漁期には浜や寺の境内にござを敷いて盤を囲む姿が地区の風物詩だった。ごいた歴60年を超える元漁師(76)は「上手に駒を出さないと、味方同士でけんかになったりしてね」と振り返る。

 漁師の減少で下火になっていたこの遊びに今、全国から熱い視線が注がれている。

 地元の愛好家が99年に「保存会」を結成したのをきっかけに、ネットや口コミで人気が高まり、昨年4月には東京のゲームメーカーがカード版を発売。簡単で親しみやすいルールがうけ、約1年間で500セットが売れた。半年で売れ行きが鈍るゲームが多いなか、今も売れ続けている。

 昨年秋には東京に保存会の支部も結成され、今年1月には町無形民俗文化財に指定された。3月には保存会が「ごいた」を商標登録。4月に都内であったゲーム見本市では来場者の人気投票「シュピレッタ賞」の1位を受賞した。

 町商工会の後押しで、地元の人たちの間でも見直す機運が高まり、20〜70代の約400人が年6回の大会を楽しむまでになった。

 ごいたに限らず、土地に根ざしたゲームの人気は高い。そのひとつがエジプト生まれで明治期に伝わった「カロム」。おはじきとビリヤードが合体したようなこのゲームに注目した滋賀県彦根市では20年前から毎年「カロム」の日本選手権が開かれている。昨年は全国から500人以上が集まり盛り上がった。

 青森県五所川原市では、6人が2組に分かれて絵札を取り合う「ゴニンカントランプ」の世界選手権大会が毎年1月に開かれ、今年も小学生から80代まで約800人でにぎわった。島根県雲南市掛合(かけ・や)町では、独特のルールの「掛合トランプ」ワールドカップが地元同好会主催で約40年続く。

 郷土ゲームの研究者や愛好家らでつくる「遊戯史学会」の増川宏一会長=兵庫県伊丹市=は「各地に残るゲームは、それぞれの祖先が独自に築き上げてきた地域の財産。時代の変化の中で生き残ってきた遊びには魅力があり、全国発信できる資源になりうるのでは」と話している。(金井信義)

     ◇

 〈ごいたのルール〉 王、飛、角、金、銀、馬、香、歩と書かれた駒32枚を使い、2人1組、計4人で対戦する。親が手持ちの駒を打ち出し、反時計回りに1人8枚の手持ちの駒の中から、同じ駒を1枚ずつ出して、最初に駒を出し終えた者のいる組がまず1勝。どの駒で上がるかによって得点が変わり、数回のゲームで150点先取した組が最終的に勝利となる。同じ駒を持っていない場合はパスし、出せる人がいなくなれば、最後に出した人から再開。同じ駒を持っていても出さない駆け引きもある。

http://www.asahi.com/kansai/kouiki/OSK200805210033.html